墓というのは言わずもがな、悪魔の森の大迷宮のことだろう。何百年も前に人柱となったはずのヴァージニアと再会したのだ。そりゃあアランが気になるのも無理はない。ヴァージニアは腕を組み直すと、俺のほうにチラリと目をやった。
「私も叩き起こされたんだよ。そこの彼に」
そう聞いて、アランが俺の顔をまじまじと見つめる。
「気にニャっとったんじゃが、こいつ何者(ニャニモノ)ニャんじゃ? わしのトレーニングダミーがレベル1000まで手も足も出んかったんじゃが」
「彼は……私の弟子だ」
その言葉に、アランが驚く。なんなら、ヴァージニアと再会したときよりも驚いているように見える。
「弟子⁉ あの言い寄る連中を一人残らず黒焦げにしとった偏屈者のおぬしが⁉」
「君の言葉にはやや語弊があるように思える。純粋に私から魔法を学ぼうとする気概のない連中を、少し脅かしてやっていただけだ」
どうやら俺の師匠は、むかしは結構ブイブイいわせていたらしい。大図書館で見た彼女の挿絵が、やたら目つき鋭く描かれていたのは、こういった事情もあるようだ。
「しかしどうだねアラン。彼はこう見えてかの『原初の五柱』を従えるほどの実力者であり、人格者だ。実力も見ての通り、私の英雄は、なかなか『やる』だろう?」
そう言うと、ヴァージニアは心底誇らしげに胸を張った。古の英雄ふたりを前にしてこういうのもなんだが、まったく悪い気はしない。
「そうさの。おぬしが仲間におったら、わしらの旅も楽じゃっただろうにのう」
剣神からそこまで言われると、むしろちょっと恥ずかしい。
「ま、わしには勝てんがの」
おっとこのじじい。なんの前触れもなくおっぱじめやがった。俺の愛想笑いが消えたのを察してか、老ネコのアランはニッと笑って、背負っている大剣に手をかけた。
「いい目をするのう。そうじゃぞ、若いうちは、売られた喧嘩は買わニャきゃあニャらん。どれ、わしが少し稽古をつけてやるとしようかの」
アランの目がギラリと光る。俺としては、願ってもない申し出だ。かの剣神に手合わせをしてもらえる機会など、後にも先にもありはしないのだから。
「わかりました。買いましょう」
老いたネコの全身から、闘気がみなぎるのを感じる。なんだかんだ言って、彼はヴァージニアと肩を並べた英雄なのだ。俺も手が震える。
「じいちゃん、無理すんニャって」
「うるさいわい! 女の子はべらせとるガキに、一発ガツンと喝を入れてやるんじゃい!」
それが本音か。このネコほんとに悪ガキみたいだな。
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