「おかえり~、楽しかった~?」

 『たかいたかい』からの帰還を出迎えてくれるホエル。その周囲では、アランの幻影が次々と霧散していくところだった。さてと。

「こいつをどうしたもんかな」

 俺の腕の中では、ヨボヨボのネコがぐるぐると目を回していた。


***


「これ老猫虐待じゃろ」

 目を覚ましたアランの第一声がそれだった。いま、伝説の剣神は、俺たちの目の前で正座させられている。

「おやおや、その理屈でいくと私も君と同じ老人ということになるのだが。いましがた若人たちと一緒くたに、随分といじめられた気がしなくもない。よもや無邪気ないたずらで済むとは思っていないだろうね」

 腕を組んだヴァージニアが、にこにこと笑顔を浮かべながらアランを見おろす。顔は笑っているように見えるが、半端なく怒っていらっしゃる。

「わし悪くニャいもん。〈魔石〉に悪さしようとした、おぬしらの落ち度じゃもん」

「久々の再会で私もこういう詰め方はしたくないのだがね。君は一団の中に私やシュリがいることを把握した上で傍観を決め込んでいたわけだ。その時点で、君がいま言った理屈は破綻している。よもや最初の幻影があっけなく倒されたからムキになった、とは言うまいね」

 アランはバツが悪そうに、黙って目をそらした。図星だったらしい。しかしこれがあの『剣神』か。伝説の英雄というより、まるで先生に怒られる悪ガキだ。まあ、お茶目とか無邪気といった次元は、軽く超えていたが。

「それぐらいでいいじゃない。ねっ? 誰も大怪我はしなかったんだし」

 ヴァージニアが手に《サンダー》をまとわせたところで、リュカがたまらず制止に入る。割とリアルに死を覚悟したけどね、俺は。まあ俺からのぶんは、【界面爆轟】でチャラということにしておこう。

「じいちゃん……ほんとにじいちゃんニャのか⁉」

「ニャんじゃシュリ。おぬし、もうわしの顔を忘れよったか」

「じいちゃああああああん‼」

 アランに泣きつくシュリを見て、ヴァージニアも怒る気力が失せたのか。大きなため息を吐いて、やれやれと腰に手を当てた。

「まったく、老いぼれが出しゃばるとロクなことにならないな。死者ならなおのことだ」

「いやわしとしては、おぬしが目の前におることがびっくりニャんじゃが。ヴァージニア、お前さん墓はどうしたんじゃ」