確信があるわけじゃない。しょせんは仮説だ。だがしかし、切れる手札が尽きる前に勝負を決めなければならない。俺の思いつきに、賭けるしかない。この作戦には、彼女の協力が必要不可欠だ。俺は乱戦の中、ホエルの姿を探した。

「…………」

「うふふ~、そ~れ」

「…………⁉」

 ホエルはアランたちに次々と切りかかられながらも、それをほとんど意に介することなく、掴んでは投げ、掴んでは投げを繰り返していた。無尽蔵のタフネスを誇るホエルならではのストロングスタイルだ。人間の姿でも、やっぱりホエルのフィジカルは格が違う。

「ホエル!」

「な~に~?」

「こんなときになんだけど、『たかいたかい』してくれないか。全力で」

「うん、いいよ~」

 ホエルは俺の両脇を掴む。即席カタパルトの完成だ。

「じゃあいくよ~、それ~」

 白鯨の全力が、俺の全身を伝う。以前、保育園でされた、たかいたかいなど比ではないGが、俺の体を押し潰そうとする。だがこれでいい。あとは【疾風迅雷】で角度を調整する。これでようやく、やつは俺の、射程範囲内だ。

「待たせたな、剣神アラン」

 俺の目の前には、本来そんなところにあるはずのないモノが浮かんでいる。


 月、だ。


 この世界が別次元だと、すぐに気づけた要因である、ふたつの月。あきらかに不自然でありながら、無限に続く花畑や、増殖するアランの幻影を前に、俺たちはその不自然さを自然に受け入れていた。まったく見事だと思う。だが、俺たちの様子を俯瞰できる特等席は、この世界ではここを置いて他にない。本物の月は、もちろん遥か上空のひとつだけだ。

「『これ』はまだ見せてなかったな。俺のとっておきだ」


【界面爆轟】ッッッ‼


 リュカの【獄炎焦熱】とフェリスの【絶対零度】を《合成》した俺が持ちうる最高火力。猛烈な衝撃波が、空一面に大輪の花を開かせる。超新星のごとく爆散した月の、最後の輝きが、地上で戦う仲間たちの顔を照らし出した。

「ギニャアアアアアアアアアアーーーーーーーッッッ⁉⁉⁉」

 悲鳴とともに、偽りの月はその正体をあかし、老いたネコが落下していく。俺は【天衣無縫】で自身の体を浮かせると、老ネコの体を脇に抱え、音もなく花畑に着地した。