「ソラ、このままでは全滅だ」
死闘が続く中、ヴァージニアが背中越しに語り掛けてくる。
「俺もそう思う。まったく、アランってのはとんだひねくれ者だ」
「ああ、だけど打つ手がないわけじゃない」
俺は迫りくるアランを斬り払いながら、ヴァージニアの声を聞く。なにか決意じみたものを、ひしひしと感じる。
「すぐ実行に移さないってことは、なにか理由があるんだろ」
「その通りだ」
ヴァージニアは魔法を撃ちながら続ける。
「私がこの魔法罠に干渉すれば、君たちをこの世界の外に弾き出すことは、理論上可能だ」
「なるほど、たしかに悪くない打開案だ。けど君たちってことは」
その言葉から察せられる情報は、ヴァージニアひとりが、この世界に残ることを意味する。仲間たちのために、再び彼女を、孤独の道へ追いやるということだ。
「ヴァージニア。悪いけど、その作戦は却下だ」
「ふっ、君ならばそう言うと思っていた」
「俺に約束を破らせないでくれたことには感謝する」
「どういたしまして、私の英雄。だがどうする、手詰まりだぞ」
ヴァージニアの言うとおり、すでにアランとの戦いが始まってから、数時間が経過しているように思うが、一向に打開策は見えてこない。巻き込まれたシュリを除けば、俺たちはみんなレベルが高いこともあり、なんとかしのいではいるが、そのアドバンテージも埋まりつつある。俺はこれまでの戦いから、ヒントを探る。なにか、なにかあるはずだ。
「ぐあっ!」
アランから手痛い一撃を受けたフェリスが、足をよろめかせる。
「フェリス! 大丈夫か!」
「心配には及ばない。臭いがないから、少し戦いにくいだけだ」
踏みとどまったフェリスは、そのまますぐに戦線へと復帰する。臭いがないということはやはり、俺たちが相手をしているアランは、実在しない、なにか幻影のようなものなのだと思う。ステータスがほとんど開示できないのも、【魔女】による傀儡化や【百鬼夜行】による支配が効かないのも、おそらくはそのせいだ。
だけどフェリスは、視線を感じるとも言っていた。人一倍、縄張りに敏感で、ソラリオンの哨戒を一身に担っていたフェリスの感覚に、間違いはないだろう。やつは、剣神アランは見ているのだ、どこかから、俺たちの様子を。
「そうか、そういうことか」