ヴァージニアの呼び声にも、黙して語らぬその立ち姿に、谷で慕われるじいちゃんの面影はない。ただ濃密な殺意だけが俺たちに向けられていた。まるで死してなお、谷を守らんとする亡霊のごとく。おそらくアランは、〈魔石〉がよからぬ者の手に渡ることを想定していたのかもしれない。ここは、アランによる、剣の谷の最終防衛線。『終の狩場』だ。もっとも、それを向ける相手が間違っていることなど、死者に説いても答えは返ってくるはずもないのだが。
「……くるぞ」
ヴァージニアが言うやいなや、ビリビリとした殺意が俺たちに向けられる。アランの身体が、放たれた矢のように、花弁を散らしながら疾駆する。
気づけば俺も駆け出していた。いたずらに剣を交えたくて斬り込んだわけではない。ただ、そうすれば仲間たちではなく、俺を狙ってくると考えたからだ。
「ぐっ!」
「ソラ!」
かろうじて受け止めた初太刀。ミスリルの剣から、今まで体験したことのない、ビリビリとした衝撃を感じる。気を抜くと剣ごと体を持っていかれそうだ。
(これが……『剣神』……⁉)
なかば奇襲を受けたような形である以上、こちらに不利であることは明白だ。状況を立て直す必要がある。俺はすぐさま距離を取り、ステータスを《鑑定》する。
《鑑定》
名前:アラン
年齢:
性別:
称号:
レベル:100
なんだこりゃ。レベル以外なんの情報も出てこない。ここが世界から切り離された場所で、アラン本人が実在していないからだろうか。しかしこのレベルならば、力技で押し切れる。
【豪力】【阿修羅】
攻撃力三倍と、無数の高速斬撃。この世界に飛ばされてから、幾度となく俺と仲間の命を救ってきた、必殺コンボだ。その脅威を察してか、アランは素早く距離を取ろうとする。だが、そうはさせない。
《サンダー》