「……ソラ? 逢引ってなあに?」

 リュカが表情をこわばらせながら聞いてくる。ひんやりとした谷底の空気が、2、3度ほど上昇したような気がする。

「リュカ、知らないのか。逢引というのは繁殖行為だ。私は逢引にも詳しい」

 フェリスが言う。今度は気温がグッと下がる。ジェットコースターなみに急激な気温の上下運動に、このままではみんなまとめて風邪をひきかねない。

「じゃあ、作業を始めるぞ!」

 まるで朝食の席で不倫を問い詰められた亭主が、仕事に逃げ道を求めるように。剣神アランには本当に申し訳ないと思いつつ、俺は【錬金術】を発動した。


《分解》


 スキルの発動とともに〈魔石〉はぐにゃりと形を変え……いや。〈魔石〉だけじゃない。祠も、ギャラリーたちの顔も、すべてが歪んでいる。そうか、歪んでいるのは、俺の視界だ。

「ソラ!」

 ヴァージニアが俺を呼ぶ声が聞こえる。ぐねぐねとしたうねりに飲み込まれつつある俺の手を、意識を、冷たい手が引き戻そうとする。

 しかし、その手もろとも、俺は。俺たちは。


  *  *  *


 気が付くと同時に、花の香りが鼻をくすぐった。

「なにが起こったんだ……?」

 俺は花畑の真ん中で、仰向けに寝転がっていた。もちろん、あの谷底の祠ではない。それどころか俺たちがいた世界なのかどうかも怪しい。空には星がまたたき、『ふたつの月』が俺を見おろしていた。

「ここは……?」

 体を起こして周囲を見回す。あの谷底で見た白い花が、四方八方、途切れることなく地平線まで咲いていた。その花畑に、仲間たちが、俺と同じように倒れている。

「うーん、逢引……」

「モフモフは私だ……」

 リュカとフェリスは反応があるから大丈夫そうだ。フウカとホエル、それにサレンとミュウも。反応がないのは、

「ヴァージニア!」

「…………」

「おいしっかりしろ、ヴァージニア!」