翌朝、俺たちは剣神アランの祠の前に集まった。谷じゅうのネコたちが、俺の視界いっぱい、ところ狭しと集まっている。こんなにいたのか、まるで猫島だ。俺やっぱりここに住みたい。

「あわわわわわ……お兄様、ここはケダモノの住む魔窟ですわあああ……」

 昨夜の一件から完全に怯え切ったフウカは、さっきから俺の服の裾を掴んで放そうとしない。まあ、彼らも本気で食べようとしていたわけではないのだが、フウカの気持ちもわからなくはない。

 なにはともあれ、〈魔石〉からスキルを抽出する準備は整った。

「本当にいいんだな」

 俺はミッケとシュリに、あらためて確認する。

「ああ、ワレワレはいつ始めてもらっても構わニャい。シュリの覚悟が変わらないうちにやってくれ」

「うるせえ! オレの腹はもう決まってんだ!」

「……だそうだ。ソラどの、頼む」

 俺はふたりの覚悟を受け取り、静かにうなずく。

「ソラ、いまさら言うのもなんだが」

 作業に取り掛かるべく、さっそく〈魔石〉へと手を伸ばした俺に、エルダーリッチ……ヴァージニアが声をかける。

「どうしたんだ。ここまで来てやめるって選択肢はないぞ」

「いや、そうではないんだ。ただ、胸騒ぎがする。……まあ待て、まったく論理的ではないことを言っているのは自覚している。そうだな、言うなれば」

 そして大真面目な顔でこんなことを言う。

「女の勘というやつだ」

 ヴァージニアの言葉に、俺のみならず、仲間たちはみんな呆然とする。彼女が感覚でモノを語るようなタイプではない、というのは周知の事実だ。

「どうしちゃったのエルダーリッチ、熱でもあるの?」

「アンデッドも熱が出るのか?」

 リュカやフェリスがヴァージニアの顔を覗き込む。

「んま、んまあ! エルダーリッチさん、それはひょっとして新しいスキルですの? ひょっとして昨日お兄様とおふたりして逢引なされていたことと何か関係がございますの⁉」

 相変わらず俺の服を掴んだまま、フウカが口をはさむ。あんな毛玉状態になって号泣しながらも、ちゃっかり俺たちのことは見ていたのか。フウカの口止めをしなかったのは、迂闊だった。いや止めても止まんないだろうけどこの子は。