我に返った俺たちは、慌てて距離を取る。そうだ、ここは剣の谷。ソラリオンの自室じゃないことを失念していた。目をやると、屋敷から大量のネコにまとわりつかれたフウカが這い出してきているところだった。

「後生だから、後生だからひと舐(ニャ)めだけさせてくれーっ!」

「かじらないから! 痛くないから! さきっちょだけだから!」

 いよいよもってエサと化しつつあるフウカに、ネコたちが群がって大きな団子みたいになっている。そういえばこの谷にくる道中、ミッケがしきりに鳥がどうこう気にしていたが。なるほど、ネコは本能的に鳥を襲わずにはいられないらしい。

「お兄様あああッ、助けてくださいましーッ! このままだと、このままだとわたくし食べられてしまいますわーっ! いますぐここを離れて安全なところに! ああっ、やめてくださいまし、わたくしは美味しくありませんわあああーーッッ!」

 モテ期から一転、バイオハザードに放り込まれたフウカは、狂乱しながら両手両足を振り回していた。あれだけ図に乗っていたというのに、気の毒な。しかしちょっと羨ましい。

 俺と『ヴァージニア』は、思わず顔を見合わせ、同時に吹き出した。


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