私は、私が嫌いなのだ。だがそんな私に、かつて声をかけた者たちがいた 。ともに世界を救おうと。みんなが私を英雄ともてはやした。私は、私をほんの少しだけ好きになれた。
しかし、彼らと歩んだその道は、多くの犠牲を伴うものだった。私は、また私を嫌いになりたくなかった。だから私は、迷うことなく、私ひとりを犠牲にする道をえらんだ。英雄として死ぬことをえらんだ。
彼らが私を仲間として信頼してくれていることを、私は知っていた。私を英雄として信頼するみんなの心を、私は知っていた。そんな彼らを救うために私は、自分勝手に、信頼を裏切った。遺された者たちを悲しませることはわかりきっていた。
私は、私自身のために、悲しみを背負う生き方を、他の者たちに強いたのだ。
それでよかった。死にゆく者の自己満足だ。君たちは悲しみを乗り越えて、せいぜい長生きすればいい。私は悲しまない。悲しむことなど、許されるはずもない。もっとも、死者にはそんなもの、必要ないのだが。
ところが、私の墓は暴かれた。
行き止まりだと思っていた暗い道に、とつぜん日がさした。私は仲間と呼べるものを『得てしまった』。私がかつて、後ろ足で泥を引っ掛けた、信頼が、私をなじった。
私は嫌いだ。私自身が。
仲間たちが私を呼ぶごとに、かつての私が意地悪な顔を出す。信頼を得るごとに、消し去れない過去の私が、私の胸に釘を刺す。だから私は、私を拒絶する。ヴァージニア・エル=ポワレの名を嫌う。
ヴァージニア・エル=ポワレは、自身を殺すことをいとわない。仲間を悲しませることをいとわない。信頼を蹴り飛ばすことをいとわない。自分勝手で、偏屈な魔術師だから。それが英雄として生きる者の宿命だから。彼女は大切なものを、いつだって、失う。
『君が本当に許せないのは、いや、『怖れて』いるのは、君自身なんじゃないのか』
弟子の放ったその一言は、的確に、私の心臓を射貫いた。私は、本当は、怖れていたのだ。みんなからの信頼よりも、ヴァージニア・エル=ポワレとしての生き方を強いる私自身を。それは英雄としての、こりかたまった矜持に他ならない。私は今も恐れている。私の中のヴァージニア・エル=ポワレを。仲間を失うことをいとわない、偏屈ゆえの慢心を。