だが彼女は、選んだ。仲間とともに歩む日の当たる道から外れ、暗く冷たい孤独の道へと進むことを。その先が、行き止まりであると知りながら。

「若人に当たり散らすとは、私も焼きが回ったものだ」

「ヴァージニア」

 気づけば、俺は彼女のことをそう呼んでいた。不意に名を呼ばれた彼女は、すこし驚いたようだった。

「どうしたのかね、改まって。その名には居心地の悪さを感じずにいられないのだが」

「アランと君は、違う」

「……………… !」

 俺の言葉に、彼女は大きく目をみひらいた。薄い笑みの、仮面の下から、ヴァージニア・エル=ポワレの顔が見えた。エルダーリッチが自分を嘲るのは、彼女自身と、ネコ族を残していってしまったアランの境遇を、重ねているからだと思った。いや、思っていた。

「なにを言い出すかと思えば、当たり前のことを。たしかに私はエルダーリッチ、とっくの昔に死んだ女だ。立派な墓もある。だから死者の肩を持って生者をいたぶるべきではないとでも言うつもりかね」

「そうじゃない。アランはたしかに、ネコ族のみんなに課題を与えた。身勝手に遺していってしまったアランも、遺されたネコ族たちの停滞も、君が許せないたちだというのは知っている」

 俺は言葉を選んだ。こんなものは俺の憶測にすぎないのだろう。だが今の、辛そうな師匠を、仲間を前にして、言わすにはいられなかった。

「君が本当に許せないのは、いや、『怖れて』いるのは、君自身なんじゃないのか」


  *  *  *


 ――偏屈――。


 もし私という存在を一言で表すとすれば、それ以外の言葉はないだろう。


 私は嫌いだ。他人と心を通わせることが。

 私は嫌いだ。勝手に本意を読み解かれることが。

 私は嫌いだ。他人の心を軽んじる私自身が。

 私は嫌いだ。自分を棚に上げる私自身が。

 私は嫌いだ。決断を下せない私自身が。

 私は嫌いだ。そんな私に、心を向けられることが。