エルダーリッチの問いかけは、重く、鋭い。遠回りなようでいて、いつも的確に急所を射貫いてくる。
「はっきり言おう。死者などに縛られるな」
珍しく、エルダーリッチははっきりと言い切った。彼女の言葉はどこか、彼女自身にも向けられている。そんな気がした。シュリは耳をうなだれて目を逸らす。
「けどオレは、じいちゃんを忘れることニャんかできねえよ……」
「それは前に進まない理由を死者に押し付けているだけだ。そんな生き方が、アランの遺したものだと言えるのかね」
あくまでも理性的に。しかし、その語気には彼女らしからぬ、強い感情が込められているように感じられた。シュリはまるで親に叱られた子供のように、しゅんと肩を落とす。
「……悪かった。一晩、よく考える」
そう一言だけ呟いて、シュリはとぼとぼと、屋敷へ帰っていった。俺とエルダーリッチは、黙ってその背中を見送った。
それからしばらくの間、無言の時が流れた。先に口を開いたのはエルダーリッチだった。
「他人に説教する姿を弟子に見られるというのは、あまり気分のいいものではないな」
「席を外したほうがよかったか」
「いや、君を嫌っているわけではない。歳をとると色々なことに鈍感になっていくんだ。そして鈍感な自分に嫌悪感を覚え始める。私はひねくれた老いぼれだからね」
月が、彼女顔に影を落とす。いつもと変わらない薄い笑み。しかし俺にはそれが、彼女自身を嘲っているようにも、同時に、泣いているようにも見えた。俺は大図書館で彼女が見せた姿を思い出す。
自信に満ちた、その笑みの下で。
『君の仲間が眩しい。でもそこに入っていくのが怖いんだ』
彼女は、いつも怯えていた。
『私は大切なものを……いつだって……どうしたって失う……』
彼女は、いつも泣いていた。
あの薄暗い、悪魔の森を囲む大迷宮という『墓』の下で。何百年ものあいだ、彼女は孤独だった。もちろん、生まれながらに孤独な者も、自ら好んで孤独に浴する者もいる。