「それは、まあ、好きだけど」
なにやら含みのある質問に対し、俺は素直に答える。
「私もモフモフだ」
雲行きが怪しくなってきた。この『剣の谷』を訪れるに際し、俺は幾度となく必殺のモフモフナデナデを、ネコとじゃれあっているような感覚で実行してきたわけだが。言わずもがな、相手はネコではなく魔物だ。そしてほぼ全員が魔物にカテゴライズされる、俺たちのパーティーにおいて、モフモフの毛並みを持つ仲間は、狼のフェリスを置いて他にいない。俺がネコ族のモフモフにばかりかまけているから、ジェラシーを燃やしているのか。
「そうだね。フェリスもモフモフだね」
「撫でろ」
あんぐりとあいた俺の口から、糖蜜酒がたれる。ジェラシーはジェラシーでも、フェリスはメラメラと燃やし燻らせるタイプではない。冷たく研ぎ澄まされた氷の刃のように、真正面からズバッとくる。それがフェリスだ。
「いや、撫でろって言われても……」
「私もモフモフだ、やれ」
人間の姿である今のフェリスの、どこにモフモフがあるというのだろうか。だがそんなことはお構いなしとばかりに、フェリスはその赤らんだ顔を近づけてくる。ネコ族相手のモフモフナデナデでさえ、セクハラまがいのそしりを受けたのだ。もし今の、一見して女の子でしかないフェリスに『モフモフナデナデ』をかまそうものなら、それはもう一切の弁解の余地がないのではなかろうか。
「そうは言ってもフェリス、みんなが見てる前でそれは……」
「やれ」
「……はい」
脅迫に屈した俺は、おそるおそるフェリスの細い顎をなでる。案の定、モフモフというか、すべすべだ。
「んっ……あっ……」
指先が輪郭をなぞるたびに、フェリスが変な声を出す。幸いにも、他の仲間たちはネコたちとの談笑に花を咲かせていて気づかれなかったが、声は控えてもらいたいところだ。万が一この状況を見られようものなら、なんの言い訳もできない。
「うんっ……悪くは、ないな」
「俺は気が気じゃないよ」
「気が乗らないなら、他の場所も撫でてみろ」
ここでそれは、大変よろしくない方向に進んでしまっている気がする。いや他の場所でならよろしいというわけでもないが。フェリスはすっかり酔っているわけで、いやまあ、やぶさかではないにしろ。試しにうなじに手を伸ばしてみる。
「ひゃうんっ!」