「ああ、それはデスアントだニャ」

 おっと聞き捨てならない。

「……アリが、入ってるの?」

「いやいやまさか。デスアントが集めている蜜を、少しわけてもらっているだけだ。蜜を貯めすぎて動けニャくニャった、欲張りなやつから、ちょろっとニャ」

 腹に蜜を貯め込む習性を持つアリは、この世界にもいるようだ。たしか、ハニーポッドアントだったか。しかし俺は、この世界ではまだ虫そのものを見かけていない。いや見かけなくてもいいんだけど。たしか以前、市長が畑の害虫駆除にと言って、やけに長い槍を磨いていたのを思い出す。いやまさかね。

「なあ、その、ちょっと聞きたいんだけど。そのデスアントって、大きいのか?」

「そんニャにデカくニャいぞ」

「ほっ、ならよかった」

「お前たちの馬よりちょっと小さいぐらいだニャ」

 でけえ。よくそんなデカい昆虫から蜜盗んでこれるなこいつら。

「この蜜で作るお酒がまた、ウマいんだニャこれが。まあ腹にたまるわけじゃニャいから、こういう特別ニャときにしか飲まニャいんだけど。ささ、ソラどのも試しに一杯」

 なるほど、食糧難ではあるが、お酒だけはあるのか。アリ蜜酒、甘い香りに反して度数は強そうだ。これはいかにも冒険者や職人が好みそうな味だな。この谷は剣作りに定評があるそうだが、このお酒も特産品としての価値は高そうだ。

「ソラ」

 俺が感慨深くアリ蜜酒を眺めていると、フェリスが厳しい目つきで俺を睨んでくる。

「あれ、フェリス、ちょっと酔ってる?」

「私は酔わない」

 ちらりと床に目をやると、すでに蜜酒のジョッキが七つほど転がっている。ずいぶんとはやいペースで飲んでいるようだ。

「フェリス、何杯飲んだ?」

「一杯だけら」

二杯目から先の記憶は、すでにないようだ。

「それよりもソラ、お前に聞きたいことがある」

「な、なにかな?」

「いいから来い」

 俺は襟を掴まれ、大部屋の隅に追い詰められた。普段の歯に衣着せない言動にお酒も相まってか、いまのフェリスにはかなりの迫力がある。まるで鞭を手にした尋問官だ。

「ソラ、お前は、モフモフが好きなのか」