「そう、なら良いんだけど。ソラ、なんだかよこしまなことを考えているような顔をしてたから、ちょっと気になったの」

 こういうところは勘が鋭い。たしかに彼らネコ族は、厳密にはネコではなく、リュカたちと同じ魔物だ。大事な仲間として、俺が他の魔物にうつつを抜かしすぎる前に、釘を刺しておこうということか。なるほど、肝に銘じておこう。

 しかしネコ族とこうして仲良くなれたのも『彼女たち』のおかげだろう。

「エルダーリッチどの、先代のことをもっと教えてくれ」

「若いころのじいさんの話、もっと聞きたいニャ」

「まあ、私はあまり自分の出自に関わる話はしたくないのだがね。君たちに語るぶんには問題ないだろう。そうだな、あれは今から600年ほど前の……」

 ひとりは言わずもがな、エルダーリッチだ。剣神アランを敬うネコ族たちは、彼と同じパーティーで冒険していた彼女の話を、真剣に聞いていた。と言ってもほとんど歴史の授業みたいになっている。いま600年とか言わなかったか?

 そしてもうひとりは意外なことに、

「おほほほほ、モテ期到来ですわーっ! そう、このわたくし不死鳥はなにを隠そう、思慮深く雄邁なるお兄様の片腕にして、ソラリオンにおいてはお兄様に次ぐ聡明な頭脳を誇る俊英! 将来性と成長性においては他の追随を許しませんのよ!」

 フウカもまた、エルダーリッチと同じく多くのネコたちに囲まれ、もてはやされていた。しかし崇敬を集めているというよりは、フウカ自身が言うように『モテ期』がきたといっても過言ではないありさまであった。

「さあ、どんどん召し上がってください」

「フウカどの、お肩をお揉みいたします」

「苦しゅうない、苦しゅうないですわ。しかし困りましたわね。わたくしにはお兄様という運命のお方がいるにも関わらず、このままでは、この谷にわたくし専用のハーレムを築いてしまいそうですわ。おほほ、まいってしまいますわー」

 フウカは片手で飲み物をちゅーちゅーしながら、もう片方の手で寄ってきたネコの喉をゴロゴロナデナデしていた。不死鳥の姿をさらしたことで、ネコ族たちはフウカに強い興味を抱いたらしい。ミッケは、彼らの種族特有の、本能的なものだと言っていた。遺伝子レベルでネコに好かれているということか、正直とてもうらやましい。

「さあどんどん食べて太っ……、ご成長ニャさってください」

「お肉は揉むと柔ら……、いえ、しっかりと肩の凝りをほぐしておかニャくては」

 エサだと思われてない?

 いっぽう、ミュウとサレンはさっきからホクホクカブ料理を食べるのに夢中だ。

「ナンカ、ヘンナアジ」

「……甘いような、しょっぱいような……」

 たしかに、不思議な味付けだなとは、俺も感じていた。ホクホクカブそのものも、煮込めば強い甘味が出てくるのだが、それとは別の甘さがある。それに、ごくわずかだが、塩気と酸味があるように思う。この谷で塩が取れるようには思えないのだが。