「うるせえーっ! 嫌ニャもんは嫌ニャんだーっ!」

 シュリは駄々っ子のようにわめき散らしながら、集落の方へと駆けていった。あとに残された者たちの間に、沈黙が流れる。

「すまニャい客人。みっともニャいところを見せてしまった。一日だけ、時間をくれニャいか。アイツも頭では、ニャにが正しい選択か、わかっているんだ」

「ああ、俺たちはそれで構わない。難しい決断だということもわかる」

 この件に関しては、彼らが決断しなければならない問題だ。手を貸すだけの俺たちが、口を挟めるようなものではない。

「恩に着る、客人。もう日も沈む。今夜は谷に泊まっていけ。たいしたもてニャしはできニャいがニャ」

 ミッケは名残惜しそうに〈魔石〉を眺めていたが、ほどなくして、祠に背を向けて歩き始めた。気丈にふるまってはいたが、強く握りしめられていた肉球には、自らの深い爪痕が残っていた 。


  *  *  *


 その夜は、予想に反して、ずいぶんと賑やかだった。シュリ一匹を除くほとんどのネコ族は、はやくも谷の復活を前に、ささやかながら前祝と称して酒盛りを始めていた。

「ソラどの~、この谷をよろしくお願いするんだニャぁ~」

「成功を祈願して、いっちょ舞ってやりますかニャ」

「おおっ、あれをやる気だニャ、ブッチお得意の『つるぎの舞』を」

 ホクホクカブのスープを囲み、ネコたちが上機嫌で踊り出す。振舞われている料理はほぼすべてソラリオンの商隊から奪われたものだが、いまさら無粋なことは言うつもりはない。彼らとこうして友好的な関係を築けたことは喜ばしい限りだ。それになにより……

「ニャッホ、ニャッホ、ニャッホ」

「フーッシッ、フーッシッ、ニャロロロロロ」

「マーオ、マーオス、フォルルルル」

 眼福だ。ネコたちに囲まれて、しかもお話しまでできるなんて、ここはネコ派の楽園だ。俺もうここに住みたくなってきた。

「ソラ、この谷とも協定を結ぶの?」

 リュカがホクホクカブのサラダを片手に話しかけてくる。

「ああ、そのつもりだよ。ここのみんなは恐ろしく腕が立つ。おそらくは剣神アランの薫陶なんだろうけど。いざというとき、彼らの力を借りることができれば、ソラリオンにとって大きなメリットになる」

 というのは建前で、俺はこの谷に足しげく通って、定期的にネコ成分を補給したいと思っている。ネコ好きには、ネコからしか摂取できない栄養があるのだ。