「………………」

 シュリはしばらく黙っていたが、そのうちえかねたかのように、口を開いた。

「……お前にできるのか」

 重い、重い一言だ。俺はシュリの言葉を真正面から受け止め、答える。

「できるよ。俺が、そうしたいと思ってるから」

 俺は、腹をくくった。お節介だろうが、偽善だろうが、知ったことか。必ずこの谷を救ってみせる。いや、救う。


「やれやれ、君というやつは、救いようのない救世主だ」

 この谷に入ってから、ずっと押し黙っていたエルダーリッチが口を開いた。彼女は髪を少しかき上げると、まるで出来の悪い弟を諭すような目で、俺に微笑みかける。

「君には理想を現実にする力がある。いや、現実を理想に『作り替える力』とでも言うべきかな。君の意思こそが、その力の正体だ。【錬金術】のスキルはその一助にすぎない」

 相変わらず難解なことを言う。しかしそんなものどこ吹く風と言わんばかりに、エルダーリッチ、かの大魔術師ヴァージニア・エル=ポワレは胸を張る。

「力とは、気高き意思のもとに集うものだ。数多のスキルしかり、この私しかり」

「……ということは、まさか」

 俺はエルダーリッチの目をまっすぐ見つめた。彼女の目は、いつも通り、自身に満ち溢れている。

「ああ、この谷に風を取り戻すための手段について、すでに見当はついている」


*  *  *