ギイン!

 間一髪、俺の抜いたミスリルの剣が、惨事を防いだ。

「フン、ニンゲンめ小癪ニャ真似を。よほど手に入れた家畜が惜しいと見える」

「家畜じゃない。彼は俺たちの仲間であり、俺たちはこの谷を救うために来た。彼の言っていることに、嘘偽りは一切ない」

「おいおい、ニンゲンはまどろっこしくていけねえ。もっとシンプルにいこうぜ。御託をニャらべるなら、このオレ、一族最強の戦士、『剣神シュリ』に勝ってからにしやがれ!」

 剣神、その称号には聞き覚えがあった。大図書館で読んだ、かつて世界を救った四人の英雄。エルダーリッチの、かつての仲間、剣神アラン。その文字をなぞる細い指。そして悲しそうなエルダーリッチの横顔。なんだろう。その名を騙られると、無性に腹が立つ。

「『勝って』いいんだな?」

 俺はミスリルの剣を鞘に納め、指をコキリと鳴らした。話し合う前に、ちゃんと『コミュニケーション』を取らなければならないようだ。

「みんな、目を瞑って、耳を塞いでくれ」


*  *  *


「ニャホフ、オウフ、おっふ、ほろろろろ……」

「よーしよしよしよしよしよし、べえべえべえべえべえ」

 勝負は一瞬で決着がついた。一度捕えてしまえばずっと俺のターンだ。ナデり、モフり、あらゆる手技の限りを尽くして堕とす。鍛え上げられた俺のナデナデモフモフは、スキルで言うところの、【対ネコ族特効◎】だ。

「いいのか、ここがいいのか」

「オアアア……イイ……そこすごくいいニャン、ニャロロロロロロロロロ……」

 いかつい見た目に反して、なさけない声を出すじゃあないか。しかしこれは、しっかり手入れしているのか、触り心地といい、毛のハリツヤといい、申し分ない……。

「族長がやられた! お前たち、全員でかかるぞ! 族長を魔の手から救うんだ!」

族長を手籠めにされ、谷じゅうにひそんでいたネコたちが殺気立つ。しかし魔の手とは失礼な。せめて魔性の手と呼んでほしい。

「ものどもかかれーッ‼」

「フェリス、頼んだ」

「わかった」

 俺が合図を出すと同時に、フェリスが〈誓約の首輪〉に触れる。周囲の気温が急激に下がったかと思うと、真っ白な毛並みの巨大な狼が姿を現した。

「ニャ、ニャんとぉーッ⁉」

 蒼氷狼フェンリル。冷気を操り、立ち向かう者すべてに死を予感させる、蒼き剣聖。