「みんな~、いまわたしの【天衣無縫】で飛んでるの忘れてない~?」
ホエルがぷうっと頬を膨らませると、高度がガクンと落ちた。
「ちょちょちょちょ! いやたしかにみんなのスキルは頼もしいとは思ってるけど、スキルがあるから一緒にいたいってわけじゃないからね!」
「スキダカラ!」
言いにくいところを誤魔化した矢先に、ミュウがドストレートの剛速球を放ってくる。
「ソラ、ミンナノコトスキ! ボクモ、ソラスキ!」
無邪気ってのは無敵だ。シンプルイズベストというか、ようするに、そういうことなんだと思う。口に出すのは、さすがにちょっと恥ずかしいが。リュカが顔面を茹で上がらせながら反論する。
「わ、私はソラの統治者としての器を見込んで仲間になったのであって……そういうアレじゃ……」
「なんだ、違うのか。私は好きだが」
リュカとは対照的に、フェリスは淡々と、じつにあっけらかんとそう言った。聞き捨てならないとばかりに、リュカに火がつく。
「フェリス、あんたはソラのことが、す、す、好きだからついてきたの?」
「無論だ。私が気を許せる相手は、そもそもソラしかいない」
「そんなの不純よ!」
「私の気持ちを、お前にとやかく言われる筋合いはない」
ふたりは相変わらず仲が良い。俺も深く考えすぎていたように思う。好きってなにも、男女の仲に限った話じゃないからな。それこそ親子愛であったり、兄弟愛であったり、師弟愛であったり。いずれにせよ、好きという気持ちを伝えられるというのは、悪い気がしないものだ。俺もいずれ、ちゃんとした場で、きちんと伝えよう。
「ニャフッ、なるほど、人魔の王か。ワレワレはお前のことを見くびっていたようだニャ」
道先案内人を務めるネコが言う。
「正直、信用に値するかどうかは、半々(ニャンニャン)といったところだった。これまでの非礼を詫びさせてほしい。……と、言いたいところなのだが」
「……なのだが?」
言いよどんだネコは、申し訳なさそうな顔を俺に向ける。
「ワレワレの中にも強情なやつはいる。とくに族長は、まだ若いせいか、話してわかるようなやつじゃニャい。今のうちに詫びておく。どうか広い心で許してやってほしい。……ほら、そうこうしているうちに見えてきたぞ」
ネコが指さす先には、大きな、そして不自然な谷が見えた。谷というよりは、亀裂だ。山岳地帯をそのまま真っ二つに切り裂いたような日陰の地が、俺たちを待ち構えていた。