「うん、確実な手段であることは間違いないよ。いまはそれで良いかもしれない。けれど、もしも俺がいなくなったら。彼らに命令を聞かせる手段が、ある日突然失われたら、それでも彼らが仲良くしてくれるとは限らない」

 それは俺が常々考えていることだ。人が誰かと関わっていく以上、やむを得ない対立はかならず起こる。それはどこの世界でも同じだし、悪魔の森の中でも、外の世界に出てからも、それこそ嫌というほど経験したことだ。だが対立は、力で押さえつけることができる。王国の支配がまさにその典型例だろう。ゆえに、国王という力を失った王国は、急速に崩壊しつつある。俺はソラリオンに、同じ道を辿らせたくはない。

「……ソラ、いなくなっちゃうの……?」

 サレンが今にも泣きそうな顔で聞いてくる。

「いや、そんなつもりはないよ。ごめん、これは俺の言い方が悪かった。そもそもどんなことにも、絶対や永遠はないっていうのが、俺の考えなんだ。【百鬼夜行】の力は絶対かもしれない。けれどそれを使う俺たちは、必ずしも絶対の存在じゃない」

 事実、外の世界の魔王であったサレンは、勇者アキラたちによってその力を奪われた。兵士たちに追われる無力な少女の姿を、俺はまだ覚えている。

「ただ、絶対じゃないにしろ。それは今日や明日のことじゃない。数百年後かもしれないし、もっとずっと、気が遠くなるほど先のことかもしれない。けれどその長い時間を、俺は『支配』に使いたくないんだ」

 支配は脆い。それが崩れたとき、失われたときの恐怖、そして屈辱を、俺は今の仲間たちに味わわせたくない。というか、俺自身が味わいたくない。

「俺はみんなと『共存』したいんだ。誰にも強制せず、強制されることもなく、ずっと隣で笑い合える。そんな関係を築いていきたい。もちろん、サレンとも」

 それが俺の、偽りのない本心だ。サレンの切羽詰まったような雰囲気にのまれて、なんだかちょっと恥ずかしいセリフを言ってしまった気がしないでもない。サレンは俺の言葉をかみしめるように、胸元に手を置くと、小さな声でつぶやく。

「……うん、それなら、よかった。わたしも、ソラとずっと一緒にいる」

 そんなことを真顔でいうものだから、焚きつけた俺としてはなんだかこっ恥ずかしくなってくる。俺は頭をかきながら話をはぐらかした。

「ようは、スキルは使いどころってこと。もちろん、使うべきときには使うよ。ただ今回は言葉が通じるから見送っただけで。ほら、実際ソラリオンでは【百鬼夜行】にたくさん助けられてるしさ」

 そんな感じで取り繕ってみる。すると俺たちの会話に聞き耳を立てていた面々が、いっせいに声を上げた。

「わ、私の【獄炎焦熱】もちゃんと役に立ってるわよね! ほら、料理とか……」

「そもそも私の【絶対零度】がなければ、食材が腐る」

「いざというとき役に立つということでしたら、なによりも速さが大事ですの。その点、わたくしの【疾風迅雷】は先日の大捕り物でも大活躍いたしましたわ。やはり一にも二にも瞬発力こそがスキルの華ですわ」