いや、おそらく苛酷なのだろうことは想像に難くないといった感じで。そんなサバイバル訓練じみたことはしたくなかったので、ホエルの【天衣無縫】で飛んでいくことにした。

「ニャんと⁉ お前たちは飛べるのか! 鳥なのか⁉」

「いや、これはスキルだよ。……鳥の仲間もいるにはいるけど」

 雷をまとう不死鳥を、鳥にカテゴライズしてもいいものだろうか。たとえるなら大陸を島と呼ぶようなもんだ。


 ネコと俺たち、大所帯でふわふわと空を進む快適な道中、エルダーリッチが俺にこっそりと話しかけてきた。

「ソラ、少し話がある。これから向かう『剣の谷』に関連するものだ」

「エルダーリッチは、なにか知っているのか?」

「厳密に言うと、知っているのは彼らの種族についてだ」

「ンニャットなんとかっていう、アレのこと?」

 エルダーリッチは小さく笑みをこぼす。

「いや、ネコ族でかまわない。私もかつてはそう呼んでいた」

「ネコ族に知り合いがいたのか」

「ああ、古い友人だ。とても古い、な。もう生きてはいるまいよ」

 そう語るエルダーリッチの横顔は、やはりどこか寂しそうに見えた。俺は大図書館で目にした、いつも余裕に満ちた彼女らしくない、弱々しい姿を思い出す。エル=ポワレを訪れてからというもの、調子を崩しているようにも見える。

「エルダーリッチ、もし行きたくないなら言ってくれ。無理についてきてもらうのは、俺としても本意じゃない」

「いや、そういうわけではないのだがね。それよりも、だ。サレンも君に、なにか話したいことがあるらしい」

「サレンが?」

 俺は後方に目をやる。サレンは俺のすぐ後ろをぴったりとついてきていた。エルダーリッチが目で合図をすると、サレンはこくりとうなずく。

「……ソラ……どうして、【百鬼夜行】を使わないの……?」

 それはもっともな質問だった。魔王サレンの持つ【百鬼夜行】は、まさしく魔物を支配するために存在するスキルだ。サレンと〈不断の契り〉を交わしている俺も、彼女のスキルを借りて行使することができる。その効果は、自身よりも弱い魔物に対する絶対命令権。それがあれば、さきほどのように、わざわざ説得などという回りくどい手段を取らなくとも、ネコ族たちに道案内させることは可能だった。しかし、俺があえて簡単な方法ではなく、遠回りな手を選んだことに、サレンは疑問に感じているらしい。

「そうだなあ……俺はさ、できることなら誰とも喧嘩したくないんだ」

「……それはわかる。でも……それならなおさら、【百鬼夜行】を使わない理由が……ない」