「ソラ、アレって……」

 傍らで炎の剣を構えているリュカが、深刻そうな声で俺に話しかけてくる。

「ああ……言いたいことはわかるよ」

「そうよね」

 アレに向かって剣を振るうのはちょっと俺もどうかと思う。

「恐ろしい魔物だわ、こっちも全力で戦わなきゃいけないみたいね。命までは取らないって作戦だったけど、【獄炎焦熱】を使うわ」

 前言撤回、俺たちはなにもわかりあえていなかった。リュカだけではなく、他のメンバーも、次々と身構える。

「くっ、なんて禍々しいんだ。だが問題ない。【絶対零度】で始末する」

「いいえ、敵を侮ってはなりませんわ! ご覧くださいまし、あの深淵を覗き込むような眼を! わたくしの【疾風迅雷】で一体ずつ確実に仕留めていくべきですわ」

「み~んなまとめて【天衣無縫】で圧し潰す~?」

「みゅ! コワイ! カイブツ!」

 悪魔の森メンバーには、あのネコがどう見えているのだろうか。たしかに、悪魔の森にはネコ型の魔物はいなかったけれども。俺にはもうネコにしか見えない。

「……かわいい」

「ケット・シーか……」

 外の世界をよく知っているサレンとエルダーリッチは、俺と似たような反応を示していた。エルダーリッチは随分と驚いているように見えたが。ネコ族の忍者がニヤリと口角を吊り上げる。

「ニュフフ、怯えているようだなニンゲンども。お前たちはワレワレの縄(ニャワ)張りに無断で立ち入った。よって、お前たちの荷物はワレワレのものだ」

「ソラ、はなれて! まとめて森ごと焼き払うわ! 【獄炎――」

「ちょちょちょちょ、ちょっと待ってくれ!」

 俺は慌ててみんなを制止する。ステータス的にもあきらかにオーバーパワーだ。リュカたちが本気で戦ったら、ネコ族たちを欠片も残さず消滅させてしまいかねない。珍しく顔に焦りの色を浮かべたフェリスが俺に言う。

「だがどうする。囲まれているぞ」

「姿を見せてくれたなら、やりようはある。こうするんだ」

 俺にはみんなと違って、相手を絶対傷つけずに拘束できるスキルがある。


【聖女】


 スキルの発動と同時に、無数の白い布が、ネコ族忍者たちの足元に出現する。