「ソラ、気をつけてね。」

「ああ」

 俺は馭者台から降りて、フェリスとともに打ち捨てられた馬車に近寄った。荷台は使い込まれてはいるが、ここで風雨にさらされた形跡はない。それに真新しい刀傷もついている。間違いなく、ソラリオンの護送兵団の荷馬車だ。彼らはまさしく、ここで襲撃を受けたのだろう。

「車軸が折れてるな。悪路にやられて修理していたところを狙われたのか」

 よく見ると茂みの奥に、残り五台も隠されていた。いずれも当然、馬はついていないが、頭絡はそのまま残っている。蹄の足跡をなぞっていたフェリスが、顔を上げる。

「馬だけ連れていかれたようだな」

「うん。だとすれ足跡か臭いをたどれば後を追えると思う。フェリス、どの方角へ向かったかわかるか?」

「ソラ、その必要はなさそうだ。来るぞ」

 言うやいなや、フェリスは手に氷の剣を発生させる。俺にはまだなにも感じられないが、どうやら件の盗賊はすぐそこまで迫ってきているらしい。

「フェリス、数と方角はわかるか」

「数はたくさん。全方位から少しずつ間合いを詰めてきている」

 ざわ、と。風が騒いだ。その音にまぎれて、鬱蒼とした木々の隙間を、なにかが走り抜ける音が、俺の耳にも届く。軽く、それでいて速い。

「くそっ、音が回ってる。いったいどこから……」

「ソラ、上だ!」

 見上げると、剣を手にした小さな影がすぐ頭上まで迫っていた。

「ニャホホホホホーーーーーウッ‼」

「ぐっ!」

 間一髪、力いっぱい振り下ろされた斬撃をミスリルの剣で受ける。顔から数センチの距離で火花が散った。そのまたたきに、一瞬目がくらむ。

「ニャッハァーーーーーーーッ‼」

「ナヒーーーーーーホホホホホッ‼」

 俺のがら空きになった胴めがけて、別の影が突っ込んでくる。それも左右から同時に。


【暴風】


 俺はとっさにスキルで防御した。風圧で近くの相手を吹き飛ばす、コカトリスのスキルだ。

「フギャーーーッ⁉」

 最初の一体も含め、迫りくる影たちは、まとめて空気の壁に弾き飛ばされた。隣を見ると、フェリスも氷の剣を器用に振るい、集団を攻撃を上手くいなしている。