「わかりました。ご報告ありがとうございます」
なんにせよ、ここにきて『魔物の強さの秘密』という気になる要素が出てきた。であれば武力で制圧するよりも、可能な限り意思の疎通をはかってみたいと思う。
「盗賊の件については、俺が直接対処しますので、ご安心ください」
「そんな、閣下自らご出征なされるので⁉」
「出征というほど大袈裟なものではありませんが。……あとその閣下っていうのは、ご勘弁願いたいというか……」
「これは失礼いたしました閣下!」
ソラリオンの将来が、ちょっと心配になった。
* * *
ソラリオンからポワレ街道へと続く山岳地帯。ここを貫く一本道は、木々が生い茂り見通しも悪く、相変わらず路面状況は悪い。それなりに起伏もあるので、馬車でスピードを出して走り抜けるのは不可能だろう。まさに交通の難所だ。そして、
(襲撃をかけるには、うってつけの場所ってわけだ)
俺は隊商に扮して馬車に揺られていた。幌を被せた荷台には、ホクホクカブをはじめとする大量の食料品とともに、仲間のみんなが乗り込んでいる。
「ソラ、コレ、オイシイ!」
「あら本当ですわ、とくにこの『らめぇん』に使うソースで煮込んだモモイノシシは絶品ですわね。たしか『ちゃーしゅ』といいましたかしら? 塩味がほどよく効いていて、いくら食べても飽きがきませんわ。脂とヌマニンニクによる旨味のダブルパンチですわ」
「ミュウ、フウカ。つまみ食いはしてもいいけど、なるべく静かにしてくれると助かるよ」
俺は背後から聞こえる談笑に釘を刺す。賑やかなのは微笑ましいが、件の盗賊に警戒されては元も子もない。もっとも、相手がそれなりに腕の立つ魔物であれば、いまこそ隙ありとばかりに襲ってきそうなものだが。
「一応これ囮だからね」
「あら、失礼いたしましたわお兄様、ついあまりの美味しさに、舌も喜びおどって庭駆けまわり賛辞の言葉が勝手に口から漏れ出て、うっ……むぐぐぐぐ……」
「しずかにしなきゃ~、ダメよ~」
「ありがとうホエル。次からはもう少し優しく黙らせてあげてくれ」
そうこうしているうちに、前方になにかが見えてきた。一台の馬車が、茂みに隠されるように横転している。
「フェリス、警戒を頼みたい。悪いがついてきてくれ。他のみんなは作戦通り、荷台で待っていてほしい。様子を見てくる」
迂闊に全員で動けば、敵は警戒するだろうから、調査は最低限の人員で行う。