「みなさんが無事なのであればなによりです。それにポータブル転移水晶は、みなさんの身の安全を守るために配備したものですから。さっそく実用性が証明されたと考えれば、なにも得るものがなかったわけではありませんよ」

「寛大なるお心遣い、感謝の言葉もございません……」

 量産した転移水晶が、緊急脱出装置として、さっそく役に立ってくれたようでなによりだ。これは今後も作り続けていこう。

「しかし問題は奪われた物資のほうですね。といっても友好宣言式が終わったところなので、たいしたものは無かったような気がするんですけど」

「はっ、我らが護送いたしておりましたのは、馬車六台分の〈ホクホクカブ〉であります」

 ホクホクカブに一命を賭していたのかこの人は。

「なるほど、であれば全体の被害としては軽微ですね」

 俺はホッと胸をなでおろした。たとえばこれがホクホクカブではなく、例のパンツのような宝物品であったならば。ただの盗賊ではなくソラリオン、あるいはエル=ポワレの内部勢力による組織的な襲撃である可能性も出てくる。というより、俺はむしろそちらを懸念していた。しかし、とりあえずその線は薄くなったと考えていいだろう。

 市長があごひげをさすりながら、こちらに目を向ける。

「ではソラ殿、この者の処分はいかがいたしますじゃ」

「不問としましょう。むしろ人的被害を出すことなく、最低限の被害に留めた功績を評するべきだと思いますが、いかがでしょうか」

「ふぉふぉふぉ、わしもソラ殿と同意見ですじゃ」

 しわしわの顔に笑みが浮かべ、護衛隊長の肩に手を置いた。

「じゃから申したであろう。王国騎士団にあったならいざ知らず、我らがソラ殿は聡明なお方じゃから安心せいと」

「おおお……なんと慈悲深きご裁定……。小官、凡才の身なれど今後一層忠を尽くし、ソラ殿の覇業のいち礎石として粉骨砕身励んで参る所存にございまするるる」

 なにからなにまで大袈裟な人だなと思いつつも、前向きになってくれたのであれば良しとしよう。

「しかし市長、俺ってそんなに武断派なイメージなんですかね」

「いえいえ、元王国兵はみんなこんな感じですじゃ。いきすぎた賞罰が常態化しておったそうですからのう……」

 なるほど、国を挙げた壮絶なパワハラの結果か。しかし国王を打ち倒したことは事実だし、実際エル=ポワレでもキーラ代表をはじめ最初は怖がられていたわけだから、悪いイメージの払拭は今後の課題だな。

「とはいえ、ちょっと甘かったかな」

「そんなことないわ。ソラは支配者じゃなくて統治者なんだから。民は土地ではなく、理性と慈悲を兼ね備えた王にこそ、付き従うものよ」