もちろん、声を出して良い場所もある。絵本の読み聞かせコーナーだ。黄色いふかふかの絨毯が敷かれていて、本を開いたホエルに向けてサレンとミュウが目を輝かせていた。

「大魔術師ポワレは、手のひらを空に向けました。すると地震が起きて、大風が吹きました。それが収まると、そこには大きな壁ができて、悪魔の森を囲んでいました。大魔術師ポワレはこうして、怖ろしい魔物たちを封じ込めたのです」

「怖ろしい魔物って、どんなの……?」

 サレンの質問に、ホエルは笑顔で答えた。

「私だよ~」

「ホエル、コワイ?」

「怖くないよ~」

 他の絵本も面白そうだったので、俺も一緒にホエルの朗読を聴いた。

 大魔術師ポワレは、仲間の勇者たちと魔物を倒す旅をしていた。大魔術師ポワレが悪魔の森で『原初の五柱』を封じると、役目を終えた彼らは各地に散り――。

「マオウノ、エホン、アッタ! ヨンデ!」

 ミュウが持ってきた絵本の、おどろおどろしい表紙を見て、サレンは露骨にイヤな顔をしていた。

「ソラ~」

 ホエルは俺を見て微笑む。

「ここにある絵本はね~、み~んな今は、ソラの仲間だね~」

「……そうだな」

そんな話をしていると、エルダーリッチに声をかけられた。彼女も、ホエルの朗読を聴いていたのだ。

「ソラ。少し、歩かないかね?」

 その声が少し寂しげに聞こえたのは、先ほどの絵本のせいだろうか。エルダーリッチは、歴史の書棚の、深く、深くに、進んでいく。彼女にいざなわれて、一緒に浮遊踏み台に乗る。踏み台はシャンデリアを横切って、天井近くまで昇って行った。

 浮遊踏み台が止まる。小さなささやきも、ここでは聞こえない。彼女は書棚から一冊の古い、分厚い本を取り出した。


『英雄は去りぬ』


 そしてその場で、ゆっくりと本を開く。

 彼女がページをめくるうちに、挿絵が現れた。剣を構える者や、斧を振るう者。幾人かの英雄に交じって、手から雷を放つ鋭い目の女が描かれている。

「……これが私だというんだから」

 薄く微笑むエルダーリッチを見て、俺は先ほどホエルが読んでいた絵本を思い出した。