『筆記には《七日インク》を用いること』

 司書さんに聞いてみると、これは七日経つと文字が消えるインクのことらしい。本の汚損を防ぐためのルールだそうだ。

「ということは、二回書き写さないと保存できないんですか?」

「いえ、後からノートに《定着魔法》をかければ、長期保存できますよ」

 とのことらしい。実に便利にできている。

 俺が司書さんといろいろとやり取りしているあいだ、仲間たちは思い思いのやり方で大図書館を満喫していた。

 といっても、本にあまり興味がないフェリスは、少し退屈そうだったけれど。

「どこに行っても文字ばかりだ、つまらない」

 と言いつつも、本棚から一冊抜き取っては、パラパラと読んで戻すのを繰り返していた。まったく関心がない、というわけではないらしい。

 それに引き換え、リュカは早速三冊ほど本を持ってきて、読書机に広げていた。

「なにを読んでるんだ?」

「……これは参考になるわ」


『剣神アランの剣術指南(上)』

『勝利の掟(I)』

『エル=ポワレ法律全書』


 剣術の本に、組織を治めるための自己啓発、あとは法律か。いかにもリュカらしいチョイスだ。もうひとり真面目に本を読んでいるのはフウカなのだが――。

「なるほど! ユニコーンの交尾には人間を介することがありますのね! 非常に興味深いですわ! ふむふむ! ユニコーンは人間の処女に……!」

「図書館内では静粛に」

 さっそく司書長さんに注意されている。フウカは、知的好奇心は誰よりも旺盛なのだが、黙ることは誰よりも苦手だ。

「失礼しましたわ! そうですわね! 皆さま集中して本を読まれていますものね!」

 司書長さんは、頬をヒクヒクと引きつらせていた。

「すみません、ちゃんと言い聞かせますので」

 俺はフウカに耳打ちした。

「謝るときも静かに、あと〝わかりましたわお兄様〟も静かにな」

「わかりま……! したわ、お兄様」

 ちょっと危ういけれど、これで少しの間は静かにしてくれるだろう。