デート騒ぎで一時はどうなることかと思ったが、ふたりとも仲良くやってくれているようでなによりだ。
「もう一回よ、フェリス! ソラを賭けてもう一勝負よ!」
「強いメスから順に子を成すのが、自然の摂理だ。諦めて順番を待て」
「私のほうが先に契りを交わしたのにぃ!」
「種を撒く畑を選ぶのはソラだ」
「君たち、そのことはいったん忘れようか。他の人たちも見てるからね、ほら。ここ学びの庭だから。ほら周囲のみなさんも、どう扱ったらいいかわかんないって顔してるよ」
ふたりには今後改めて、話をしたほうがよさそうだ。
日も傾いてきたところで、俺は改めてマリリン校長にお礼を述べる。
「今日は本当にありがとうございました。こう言っては失礼かもしれませんが、期待よりもはるかに多くのことを学べて嬉しく思います。それと、いろいろご迷惑をおかけして……その……」
「いえいえ、仰らないでくださいませ。一日では学べることはそう多くはなかったかもしれませんけれど、もし興味をもっていただけましたら、いつでもご入学を歓迎いたしますわ。わが校は世界中の誰にでも、分け隔てなく門戸を開いておりますのよ」
見学中にも説明を受けたが、誰にでも、というのは本当にすごいことだと思う。俺自身はエルダーリッチに師事しているので、今のところこの学校に腰を据えて学ぶ予定はないが、ソラリオンの住人たちに紹介してみるのはアリかもしれない。そのうち世界をひっくり返すような、優れた魔術師がソラリオンから誕生するかもしれない。その前に、ソラリオンに錬金術の学校を作ってみたいという気持ちもあったりする。だが少し気になることがある。
「しかしマリリン校長。それでは、技術の流出になりませんか?」
誰でも歓迎するということは、そこに悪意をもった者が紛れ込む可能性もあるということだ。たとえば、
「かつての王国宮廷魔術師グルーエルのように、ですかしら」
マリリン校長の口からその名前が出た。こちらの考えは見透かされていたようだ。聞くところによると、彼はこのエル=ポワレの、それもこの魔法学校出身だという。その後は王国の軍事力をバックに、この町を脅かしていたのもまた事実だ。いつまた、グルーエルのような野心家が生まれるとも限らない。
「ほほほ、それはご心配には及びませんわ」
マリリン校長は、柔和な笑みを浮かべて答えた。
「良くも悪くも、魔法は技術にすぎませんのよ。悪用を考える方もいれば、それを用いて世界をより良い方向に導いてくださる方も大勢いらっしゃいますわ。舌を火傷するからといってスープをなくしてしまったら、食卓が寂しくなってしまうでしょう」
「たしかに、そうかもしれません」
「それに、わくわくしますでしょう。今日はどんなスープが出てくるんだろうって」