しかしそう思った矢先、火球が空中でグンッと方向を変える。赤い弧を描きながら、火球は見事、最後の的に命中した。思わず拍手をしてしまう。
「すごいな、あんなことができるのか」
ようやく、このエル=ポワレが持つ魔法のポテンシャルがわかってきた。この政治的に不安定な立地、そして外の世界だからこそ生まれる発想。つまるところ、エル=ポワレの魔法には『相手』を意識し、研鑽されたものが多いのだ。外敵から街を守るため、攻撃魔法の効率や命中精度を上げるのはもちろん。たとえば使者が話していた《不可視化》なんかにしたってそうだ。孤独な状況下では生まれにくい発想だと思う。
「はあはあ、どうだ見たか! さあお前の番だぜ錬金術師!」
というわけで俺の番が回ってきたわけだが、なんかもう十分得るものはあったように思える。やはりエル=ポワレに来て正解だった。自分の中にない発想に気づき触れることが、こんなにも楽しいとなんて。そうかなるほど、対人、あるいは対魔物。コミュニティの中だからこそ生まれ得る技術だ。エルダーリッチに話したら、機嫌を損ねそうだが。いや、逆に喜ぶかもしれない。一刻もはやくこの気づきを共有したい。
「ソラ様、あの、ちょっと大きすぎませんこと……?」
「え? あっ、おわっ!」
考え事をしながら魔力を練っていたせいか、俺の頭上には太陽と見紛うばかりの巨大な火球が出現していた。しまった、真剣勝負の最中だというのに。つい他のことに集中して練りすぎてしまった。
「おいおいおいおい、なんだよそりゃあ……!」
「ソラ、はやく投げて! 爆発しちゃう!」
ギャラリーが戦々恐々とするなか、リュカが俺を急かす。いやそれはわかってるんだけど、これこのまま投げたら大変なことになるのでは。町ひとつ消滅しかねないんだけど。友好都市宣言出したばかりでそれはとてもまずい。
「先生方《シールド》を!」
マリリン校長が生徒たちを守るように魔法の壁を展開する。ただそれで守り切れるかどうかは、ちょっと保証できない。とりあえずさっき見せてもらった火球ぐらいのサイズになるよう《分解》しよう。いや、分離といったほうがいいのか。とにかく、
《分解》
《構築》
大きな太陽は、無数の火球へと姿を変えた。いくつぐらいあるんだろう。ざっと見た感じだと五〇〇……ぐらいだろうか。いやもっとあるかも。少なくとも一発一発は《ファイアボール》と大差ないように思う。俺は的に向かって慎重に、無数の火球を飛ばした。