ソラリオンに来た使者や、パンツを盗もうとした従者の男もそうだったが、魔術師には錬金術師に負けられないといった、こだわりや矜持のようなものがあるらしい。ならば相手の土俵で、相手が納得する形で付き合ってやれば、気が済むだろう。

「わかったわかった。けど暴力はナシだ。君の得意な方法でやろう。そうだな、的当てはどうかな? 俺もちょっとやってみたかったんだ、アレ」

「はっ、上等だぜ。錬金術師の分際で、学院一の魔術師であるオレサマに、よりにもよって魔法で勝負を挑んだことを後悔させてやる!」


 そんなわけで、なし崩し的に魔法射的で勝負をすることになった。ルールは簡単、遠くに並んでいる一〇体の的を、なるべく早く全部射貫いたほうの勝ちだ。

「申し訳ありませんソラ様、私どもの教育が行き届かないばかりに、お手数をおかけして」

「いえむしろこんな騒ぎになってしまって、謝るべきはこちらですマリリン校長。それに、まずは場が収まってくれないと、見学を続けられませんから」

 とは言ったものの、正直なところ俺はわくわくしていた。リュカも言っていたが、自分の立ち位置を確かめることは大事だ。それは俺自身にも言えることだろう。随一の才能を誇り、しっかりと鍛錬を積んだ魔術師相手に、果たしてどこまでやれるか。

「ソラ、すまない。また私が手を出したばかりに」

「いいよ。おかげで俺もこうして、自分の実力を試す機会を得られたわけだから」

「やるからには、きっちり『教育』してあげるのも、上に立つ者の責務よ。勝ってねソラ」

「今回は仲間や命がかかってるわけでもないから、負けても別に構わないんだけど……。やれるだけのことはやってみるよ」

 もちろんやるからには、あっけなく負けるつもりはない。それに花を持たせてやる義理もない。腹が立ちもしたが、それはフェリスが晴らしてくれた。俺がやることは、この勝負から少しでも学びを得ることだ。まあ、相手はそう思ってはいないようだが。

「魔術師と錬金術師、どちらが上かはっきりさせてやるぜ!」

 少年の中ではいつの間にか、魔術師代表と錬金術師代表の果たし合いみたいになっているらしい。


 先攻は自称天才魔法少年だ。開始の合図とともに少年が詠唱を始めると、すぐさま三つの火球が空中に現れた。ふたつを放り投げているところは見ていたが、三つもいけるのか。

「いけ、オレサマの《ファイアボール》ども!」

 三つの火球はそれぞれ別の的に向かって飛んでいくと、それぞれの中心を正確に射貫いた。俺は思わず「おおー」と感嘆の声を漏らす。そのまま六つ、九つと的に命中させ、あっという間に的は残りひとつとなった。

「とどめだ、《ファイアボール》・二式!」

 放たれた火球は的とは見当違いの方向に飛んでいく。あきらかに外れた、ように見えた。