なるほど、MPは盲点だった。俺はこっそりと自分のステータスを確認してみる。
【MP】240000
うん、盲点になるはずだ。以前悪魔の森でMP切れの恐怖を味わったことがあるが、撃てる回数に限度があると考えれば、訓練で命中精度を上げるのは合理的だ。それだけ撃つ回数を減らせるのだから。俺も消費の激しい魔法やスキルを使うときは、心がけたほうがいいだろう。そしてやはりというべきか、生徒たちも《ファイアボール》を何発か撃つうちにへばってきているようだった。
そんな中、ひとりだけバカスカ撃ちまくっている生徒がいる。
「おいおい、どうしたよザコども。才能ねえやつらはみじめだなァ、ええ?」
中学生ぐらいの少年が両手を振るうと、ふたつの火球が同時に放たれ、正確に的を射貫いた。うーん、たしかにイキり散らすだけのことはある。
「マリリン校長、彼は?」
「あの子ですの? 彼はこのクラスでも飛びぬけて素質のある生徒ですのよ。その、少し素行に難があるのが玉に傷なのですが。なまじ優秀なだけにお恥ずかしい話、先生方も厳しいことは言えませんの……」
「ああん、なにガンくれてんだテメェ!」
しまった、目が合った。少年がずかずかとこちらに歩み寄ってくる。
「お前知ってるぞ、『東の村』の錬金術師だろ。女連れで見物かよ、いい身分だなあおい」
「ハンスさん、こちらはソラリオンのソラ様です。大切なお客人ですのよ」
「はっ、どれだけ偉いか知らねえが、オレサマより才能のねえやつと仲良くつるむつもりはねえ。とくに薄汚れた錬金術師なんかとはなあ」
随分と錬金術師を嫌っているようだ。マリリン校長がたしなめるも、まるで聞く耳を持つ様子がない。正直、俺も初対面から悪意を向けてくるタイプは苦手だ。
「申し訳ございませんわ、ソラ様。後ほど厳しく指導するよう、先生方にもお伝えしておきますので」
「いえいえ、お構いなく。気にしていませんよ」
なにせこちらは一国の王から散々な目に合わされてきたのだ。いまさら子供に煽られたぐらいで立てる腹はない――とも言い切れないのが、俺の器の小ささなのかもしれない。いや、どんな背景を背負っていようが立つ腹は立つ。しかしエル=ポワレとは協定を結んだばかりだ。俺の立場からして、小さな諍いからことを荒立てるのもはばかられる。
「ですからマリリン先生、ここは穏便に……」
「おいこら、無視してんじゃねえよ。ヘタレのザコ錬金術師がよお」