「錬金術師のソラ様と、お連れの方ですわね」

 俺たちを出迎えてくれたのは、恰幅の良い白髪の女性だった。やはり魔術師らしくローブをまとっているが、よく見ると他では見かけなかった細かい刺繍がほどこされている。

「あたくし、このエル¬=ポワレ魔法学校の第八十八代校長を務めさせていただいております。マリーベル・リーンホックと申しますの。生徒からは親しみを込めてマリリン校長と呼ばれておりますので、みなさんにもそう呼んでいただけると嬉しいですわ」

 威厳に満ちた風体とは裏腹に、茶目っ気のある人だ。親しみやすいお婆ちゃんといった印象で、生徒たちに慕われているというのもうなずける。

「はじめまして、如月空です。魔法は、まだ習い始めて半年ほどなんですが、今日はよろしくお願いします。こっちのふたりはリュカとフェリスです」

「リュカです。よろしくお願いします、マリリン校長」

「ん」

 行儀正しくお辞儀をするリュカと、不愛想なフェリス。対照的なふたりを見て、マリリン校長はにっこりとほほ笑んだ。

「よろしくお願いしますわね。さっそくですが、ちょうど校庭で実習をしているところですの。よろしければご覧になられてはいかがかしら」

「いいんですか? ではお言葉に甘えて見学させていただきます」

 実演という意味では、ソラリオンに来た使者が見せてくれたものの。魔法そのものもさることながら、それをどのように教授しているのかという点には、とても興味をそそられる。どうにも俺の魔法や錬金術は、目にしたところで参考にはならないらしく。教え方はまさしく俺自身の課題だ。



 校庭では三〇人ほどの生徒たちが、遠く離れた的に向かって、一心不乱に火の玉を放っていた。みんなもごもごと何らかの呪文を唱えたあと、決められた動作で腕を振るい、器用に的を射貫いている。

「これは、《ファイア》ですか?」

「ええ、正確には《ファイアボール》ですの。《ファイア》で構成した炎を定められた方向に射出するため、二重の詠唱を要する中等級の攻撃魔法ですのよ。ご覧になったのは初めてかしら?」

「なるほど、起こる現象のひとつひとつを分離させて、それぞれを魔法で制御しているんですね。そう考えると、単純そうに見えて、たしかに難しい」

 銃で例えるなら、火薬を爆発させる動作と、狙いを絞る動作は、それぞれ別のアクションだ。それらを連鎖的に発生させている、ということなのだろう。

「その通りですわ。魔法は複雑化すればするほど、集中力やMPの消耗が激しくなりますの。そのあたりはどうしても本人の素質によるところが大きいものですから、こうして精度を上げることで、発動回数を補う訓練を行っておりますのよ」