俺は自分にあてがわれた迎賓室で支度を整えると、裏口からこっそりと公館を抜け出した。しかし。

「ソラ、私も同伴するわ!」

「意外と早かったな」

 裏口を出たところで、リュカとフェリスに出くわした。

「ふたりとも、なんでここに?」

「ソラのことなら臭いでわかる」

 フェリスはそう言うと、自分の小さな鼻をつんとつついてみせた。

「リュカは私についてきただけだ」

「当たり前でしょ。よその群れのテリトリーで繁殖行動なんてさせられないわ!」

「ソラリオンでなら構わないということか」

「うっ、そういうわけじゃないけど。ソラには統治者として、群れを計画的に管理する義務があるの!」

 いやそもそもデートに行くつもりもなければ、繁殖するつもりもないんだけど。しかし捕まってしまっては仕方ない。

「あー、うん。じゃあふたりも一緒に町を見て回ろうか。どのみち、みんなにも外の世界のことはいろいろ知ってもらいたかったからさ」

 これは俺の、まぎれもない本心だ。とくにここにいるリュカやフェリスをはじめとした悪魔の森勢には、人間社会の一般常識についても知っておいてもらったほうがいい。人と魔物の共存を実現する上でも大事なことだと、つい先ほど実感した。

「どうしてソラと私のデートにリュカがついてくるんだ」

「見分を広めつつ、親睦を深めるためよ! それに縄張りの外では護衛も必要でしょ」

「私たちよりも強いソラに護衛は不要だ」

 ふたりはまだこの散策のことを、デートだと思っているようだ。念のため否定しておいたほうが良さそうな気がする。

「ふたりとも落ち着いて聞いてほしい。今回はデートじゃないんだ」

「次の段階へ進むということは、いよいよというわけか」

「えっ、ちょっ、聞いてないわよ。そんないきなり、心の準備が……!」

「いや、デートだ。うん、もうデートってことにしておこう。そのほうがいい」

 というわけでエル=ポワレを散策しながら、ふたりとデートすることになった。


 俺たちがまず向かったのは、先日キーラさんに案内してもらった魔法学校だった。守衛さんに話したところ、ぜひ見学していってくださいと敷地内へ案内された。それなりに古い歴史があるらしく、様々な様式の建造物が立ち並んでいるのが目につく。長い時間をかけて、少しずつ増築していったのだろう。