しかしこと知的好奇心に関しては他の追随を許さないフウカは、意外にも目を輝かせるのではなく、難しそうな顔で考え込んでいた。
「でえとなる活動については大変興味深いですわ。少なくとも悪魔の森に住まう方々で、そのような習性をお持ちの方はいらっしゃいませんでしたから。人間特有の求愛行動のようなものなのでしょうか。是非とも詳しく根掘り葉掘りお伺いしたいところなのですが……」
フウカはフェリスに向かって問いかける。
「わたくしもうひとつ気になることがございますの。フェリスさん、さきほど『また』と仰いました?」
「言った」
「ということは、以前にもでえとの経験がおありと?」
「このあいだ、ソラとデートした」
凍てつく空気から一変、今度は火災現場のような熱波を感じる。
出どころは言わずもがな、リュカだ。
「そ、そそそ、ソラ? ふぇ、ふぇり、フェリスと、はははは繁殖を?」
震えながら話しているせいか、リュカの言葉がDJのスクラッチみたいになっている。けしてフロアを沸かせようとしているわけでないことだけは確かだ。穏やかな朝食の場をぶちアゲる理由などない。
「あらあら~」
「ソラ……やることやってる……」
ホエルとサレンの外野組はこれといって焦るような様子もなく、サラダをつつきながらニマニマしている。エルダーリッチにいたっては、関係ないとばかりに紅茶の香りを愉しんでいるように見えた。いや違う、目を瞑っているのは、耳でこちらの話を拾うのに集中しているからだ。
「フェリス、コドモ、イツウマレル?」
「再来月ぐらいには」
「いや生まれるわけないだろ。いいかいミュウ。デートしたぐらいじゃ子供はできないんだよ」
「ジャア、ドウシタラ、コドモウマレル?」
「うん、そうだね。この話やめよっか」
俺は大急ぎで残ったパンを口に放り込むと、逃げ出すように食堂を後にした。少なくとも、子供の作りかたは、朝から大勢で交わすような話題ではないし。なによりこのまま話を広げると、本題から逸れるどころか、俺の男としての立場がどんどん悪くなるような気がしてならない。これ以上あらぬ誤解を生まないためにも、エル=ポワレの街の探索はひとりで行ったほうが良さそうだ。