友好都市宣言式を終えた俺たちは、しばらくエル=ポワレの公館に泊まり込むことになった。魔術師の町、エル=ポワレと円満な協定を結ぶという当初の目的は果たしたわけだが。俺の目的は、もうひとつある。
もっと、この世界のことを知りたい。
冒険欲、とでもいうのだろうか。こちらの世界にやってきてすぐ、悪魔の森に追放されたこともあり、俺はこの世界をまるで知らない。なし崩し的に王都を訪れたりもしたが、自分自身の冒険心に突き動かされて足を運んだのは、このエル=ポワレが初めてだ。
そこで俺は、朝食の席でみんなに提案してみた。
「今日はこの町を見て回ろうと思うんだけど」
「またデートか」
一度俺に向けられた仲間たちの視線が、すぐさまフェリスへと向けられる。フェリスとは以前、デートと称して、ソラリオンのショッピングモールを訪れたことがある。どうやらフェリスは、一緒にお出かけすること全般を、デートと認識しているらしい。
「いや、今回は……」
訂正しようとした俺の発言を、リュカが遮る。
「フェリス、でえとってなによ?」
「繁殖の下準備だ」
さわやかな朝の食卓が凍りついた。赤面し絶句する者、興味を隠そうともしない者、我関せずとパンにかじりつく者。みんな様相は違えども、耳だけはしっかりとフェリスに釘付けであった。
「は、はは、繁殖……?」
「そうだ。私はデートに詳しい」
広義に言ってしまえば、あながち間違ってもいないのだろうけれども。しかしもともと言葉数の少ないフェリスだ。他者とのコミュニケーションを重視しないことも相まって、直球にすぎる気がしなくもない。ここは補足しておこう。
「いやその、なんて言うのかな。デートっていうのは、仲良くお出かけをして親睦を深めるためのもので……」
「親睦を深めて繁殖するの?」
錆びたからくり人形のように、首をギギギと動かしながら、リュカが尋ねる。
「そういう場合もあるけど、そうじゃない場合もあるっていうか……」
俺も言い出しておいてなんだが、上手く説明できる気がしない。考えてみれば、俺はデートのなんたるかを本質的に語れるほどのデート猛者ではない。恋愛有段者からしてみれば白帯もいいところだ。そもそも今回は、好奇心からくる純粋な散策がしたいのであって、デートをするつもりはないのだが。場は完全に『デートとはなんぞや』を語る空気に支配されている。