俺はバラバラに崩壊する自動車へと疾走する。ボンネットが開き、雷水晶が《サンダー》を漏らして火花を散らす。崩れ落ちようとする助手席のドアを撥ねのけて、俺は座席に置かれた金属の箱を奪い取り――運転席の男を飛び越えて、反対側のドアを蹴り、十メートルほど宙を飛んで、着地した。
振り返ると、運転席からのそのそと男が逃げようとしている。
フェリスが地面を踏みつけると、氷が地面を走って男の足を凍りつかせた。
「ひいっ、ひいっ!」
「なぜこんなことをした」
俺が尋ねると、男は泣きながら叫んだ。
「そ、それは我ら魔術師の、エル=ポワレの宝なんだ! 錬金術師なんぞに渡してたまるものか!」
やはり一部においては、錬金術への偏見は根強いのかもしれない。
遅れて、キーラさんや仲間たちも現場に現れた。
「魔術師の恥さらしめ……連れて行きなさい!」
魔法で生み出された光の輪を腕に嵌められ、男は警備に連行された。
「申し訳ない、ソラどの。まさかこんな裏切り者が現れるとは」
「それだけ、貴重な宝ということなんでしょう」
ケースを開けると、紫色の下着が暮れゆく陽を受けて輝いていた。
「パンツには、人の心を狂わせる魔力があるのかもしれませんね……」
俺の言葉を聞いて、エルダーリッチはこぶしを固めて震えていた。
それを見て、俺は頷く。彼女の正義は、俺にもわかる。
キーラさんは、バラバラになった自動車を見て、顔を曇らせた。
「謝罪の言葉も見つかりません。せっかくの自動車が……」
「それならご安心を」
《構築》
自動車は輝きと共に、たちまち元の姿を取り戻した。
「めでたしめでたし、ってところですね」
それからフェリスの嗅覚と、パンツ鑑定士によって、この下着は本物だということが証明された。