俺は錬金術で、ガラスに小さな穴を開けた。

「フェリス、頼む」

 俺たちの中で、いちばん鼻が利くのはフェリスだ。彼女はこくりと頷いて、ガラスの小さな穴から、においを嗅いだ。

「……エルダーリッチのじゃない。それに洗濯糊の匂いがする」

「新品ってことか」

 俺はキーラさんに目を向けた。

「してやられたらしいですね、俺たちは」

 キーラさんは、目を丸くした。

「いったい、どういうことですか」

「聞きたいのはこちらです……これはニセモノだ」

「そんなバカな!」

 自分の席を立って、キーラさんはこちらに駆け寄った。

「そんなはずはありません! 鑑定士を呼んでください!」

 やがて呼ばれたパンツ鑑定士は、白手袋を嵌め、拡大鏡で下着をつぶさに見聞した。そして、互いに目を合わせ、頷いた。

「ソラどのの仰るとおり、これはニセモノですな」

「なんてこと!」

 キーラさんは、思わずよろけそうになり――しかしそこで、ぐっと足を踏ん張った。

「さっきの男が……!」

「裏切られたのはお互い様らしいですね。フェリス、匂いを追えるか?」

 おそらく本物はガラスケースからどこかへ移されている。その際に、わずかな匂いが漏れた可能性は否めない。

「やってみよう」

 フェリスは目を閉じて、鼻をくんくん鳴らした。そして目を開く。

「追跡可能だ、ソラ」

 それだけ言って走り始めたフェリスを、俺は後ろから追いかける。

 公館を出て、カラのガラスケースを横切り、外に出たときには、さっきの従者の男が、俺の自動車のモーターを回しているところだった――間に合わない、いや。


【疾風迅雷】


 俺はフウカのスキルを使って、全身に雷を纏った。レールガンのように打ち出された俺の視線の先には、走り始めようとする自動車があった。


《分解》