「……それは手紙用だよ」
ボソッと呟いたエルダーリッチは、複雑そうな苦笑いを浮かべている。
「こちらは彼女が用いていたランプです。どういう原理かは未だ不明ですが、今でも明かりを灯し続けています。この輝きは、永久に続くでしょう」
「……あと二四七年と三か月で消える」
「それとそれと、これはですね! おっとそっちのガラスケースには触れないでください。なにせもうボロボロなので、振動を与えると良くありません」
そのケースの中には、毛玉の塊のようなものが入っていた。
「これは彼女が毎晩抱いて寝ていたというクマのぬいぐるみです」
「エリック……!」
ガラスケースに駆け寄ったエルダーリッチは、はっと気づいたように俺たちを見た。顔が耳まで真っ赤になる。
「こちらはですね、彼女が使用していた歯ブラシです。付着物を分析することで、当時の食生活をうかがい知ることができます。研究によると彼女は砂糖菓子と紅茶を好み……」
ここまで来ると、もはや歴史を越えたストーカーだ。
「そしてこれがですね、彼女が用いていたとされる下着です。こちらはかなり保存状態が良いですね」
異様に布面積が少ないそれは、何百年の月日を経てなお、紫色に輝いていた。これはかなりきわどいデザイン――。
「ソラ……」
エルダーリッチが耳元で囁いた。
「なんでもいいから、かならずこれは取り戻してくれ……!」
握ったこぶしがプルプル震えている。さすがの師匠も、自分のパンツが宝として展示されているのは、どうにも耐えられないらしい。
* * *
翌日、俺たちは公館の三階にある、会議室に集まっていた。大きな輪になった机を挟んで、キーラさんと対峙した。
「いつもの優しいソラじゃダメよ」
リュカが、俺に念を押す。
「群れの王として、可能な限りの条件を引き出すの。仲間のためよ」
「ああ、わかっているさ」
そこで議長が宣言する。
「これより、ソラリオン―エル=ポワレ間における都市提携について会談を行います」
一同が深く頭を下げて、座に着いた。