いきさつはどうあれ、国王とグルーエルを排したソラという男には、確かな力があるだろう。

 だがエル=ポワレが擁する魔法技術さえあれば。世界中が欲してやまない最先端の知見さええれば、この町は見逃される。学術の府として存在価値を認められる。そう思っていた。

 しかし、このジドウシャという巨大な魔法アイテム! 『大魔術師』を連れたソラという男は、明らかに魔法技術においてもエル=ポワレを凌駕している。

 つまり『錬金術師の町』は、魔術においても『魔術師の町』を上回っている。そうなるともう、こちらが差し出せるものはなにもない。

「よろしければ、ぜひ町を案内してください」

 ソラが言った。どこから侵略するのか、舌舐めずりをしているように思えて、キーラは震えそうな身体に精一杯力を込めた。

「ご案内、致します」

 これからこの町は滅ぶのだ。伝説の魔物たちと、強大な魔法と、それらを統率する人魔の王によって。

正直なところ、楽観視していた。国王と、その権力を笠に着て、町に無茶な要求を繰り返してきたあの憎き宮廷魔術師グルーエルがいなくなったことは、町に平和をもたらした。エル=ポワレの住人たちの顔にも、明るさが戻りつつあった。けれども、王国を滅ぼした矛先が、そのままこちらへ向けられるとは思わなかった。

「きれいな町ですね」

 ソラが笑顔を向けてくる。キーラも、ぎこちない笑顔を返す。

 キーラは精一杯、町の魅力をアピールした。エル=ポワレが存続するに値する町であると、どうにかソラに認識させる。もうそれしかエル=ポワレが生き残る道はない。

「あちらの建物が、魔法学校です。多くの生徒や教師が、魔法の神髄を識るために学んでいます。教育は日々進歩しており、いずれは世界を変える人材が輩出されることでしょう。非常に価値のある施設なので、破壊しない方が良いでしょう 」

 キーラのハンカチは、汗を吸いきってボタボタになっていた。

「向こうの、大きな建物。あれが魔法大図書館です。これまで偉大な魔術師が綴ってきた知恵の宝庫です。魔法に必要なのは温故知新。燃やさない方が良いと私は思います」

 どんどん早口になっていく。

「これは魔素が凝縮された水を供給する井戸なので、毒などを入れることはおすすめしません」

 顔は青ざめるのを通り越して、紫色に近かった。

「向こうが住宅街ですね。良い眺めでしょう。灰にしてしまうのはもったいないくらいに。なのでどうか我らの命だけはお許しください」

 キーラは生まれて初めて土下座した。