ヤバい奴らが来た!

 キーラがすぐに勘付いたのは、彼女の魔法アイテム《肩書きの眼鏡》のおかげだった。《肩書きの眼鏡》は、その名の通り、映った人物の称号や肩書きを表示してくれる。これは元来、変装や変化系の魔法を見破るためのアイテムである。

 やたら女ばかり連れているな、と思って、護衛らしき連中を映してみた。


『獄炎竜』

『蒼氷狼』

『不死鳥』

『白鯨』


 文献でしか見たことがない、伝説の魔物たちだ。《肩書きの眼鏡》の故障かと思った。そして紹介された魔術師を見ると、


『大魔術師』


 エル=ポワレにも、こんな肩書きを持つ魔術師はいない。大魔術師とは魔術の祖、ヴァージニア・エル=ポワレの代名詞なのだから。無論、目の前の彼女が、ヴァージニア本人であることなどありえないのだが。そして、背の低いひとりを見ると。《肩書きの眼鏡》は、故障していないことがわかった。


『魔王』


 その娘には2本のツノが生えていた。錬金術師のソラという男が、魔王と手を組んで王都を襲い、国王と宮廷魔術師グルーエルを殺害したという話は、あまりにも有名だ。目の前の男は、風体も普通で、なんということもないのだが、何事も見た目で判断してはならない、というのは魔術師の鉄則。

 そして《肩書きの眼鏡》は錬金術師を映す。


『人魔を統べる王』


 終わったと思った。

 エル=ポワレは、もうおしまいだ。

 この町は王国と隣国群の境界に位置し、魔術の研究成果を周辺各国へ提供することで、その見返りとして、これまで自治権を守ってきたという歴史がある。

 その一角である王国が滅んだ今、独立自治を保つには、当の王国を滅ぼした新興勢力と同盟を組むしかない。