「ま……魔物か……⁉ しかしこんなものは見たことが……」

「一斉に《ファイア》で攻撃を仕掛けるぞ……油断するな……」

 不穏な話をしているので、俺は慌てて車の外に出た。

「魔物の中から人が!」

「撃ち方やめ! 撃ち方やめーっ!」

 衛兵たちはパニックに陥っている。

「魔物じゃありません、なんというか、馬車みたいなもんですこれは」

「しかし牽く馬がいないではないか!」

「自分で走る馬車です。自動車といって、原理は魔法なんです」

 衛兵のひとりが、俺を睨みつけた。

「『魔術師の町』で、よくそんなことが言えたな! そんな魔法は見たことがないわ!」

「魔術師が、魔法を〝見たことがあるかないか〟で判断するのかね?」

 そう言ったのは、助手席から降りてきたエルダーリッチだった。

「それは……」

「上の者を呼ぶと良い。そして伝えたまえ、錬金術師が来た、とね」

 衛兵たちはなにやら話し合うと、

「しばらく、そのままで待て」

 そう言って、ひとりが詰め所に戻り、すぐに出てきた。

「公館まで案内して良いそうです!」

「よし、通せ!」

 大きな門が開かれる。

「俺が先導するから……その……踏むなよ……!」

 おそるおそるといった様子で、衛兵は車の前を歩いた。それに続いて、俺はゆっくりとアクセルを踏む。町の人々は車を見るなり、一目散に逃げ出した。怯えさせるつもりはなかったのだが。

「やっぱり新しい技術は怖がられるものなのかな」

「自信を持ちたまえ、ソラ。ほら、見なさい」

 エルダーリッチが指さす方向に目をやると、物陰に隠れながらも興味深そうにこちらを見ている目がいくつもある。

「魔術師というのは、好奇心がなければ務まらない。錬金術師がそうであるようにね。君の力はすぐに受け入れられるだろう」

「そんな簡単に行くかなあ」

「轢くな! 止まれ! 止まれぇっ!」

 衛兵が叫んだ。