みんな、すっかり道を忘れているらしい。いや、ひとり確実に覚えているって顔をしているのがいる。エルダーリッチだ。しかし彼女は、教師に当てられるのを避けたい生徒みたいに、つんと顔を向こうに向けていた。
「あのさ、エルダーリッチ。道、覚えてるよな?」
「なんのことだかわからない」
「ポワレ街道を進むと……?」
「ポワレの大樹を右折……あっ」
エルダーリッチ相手に、久しぶりに上手を取れた気がした。
「というわけで、助手は決定だ」
「ソラ、私はこういうことは忘れないタチだからな」
彼女は珍しくムスッとした顔で、助手席に乗り込んだ。こうなれば、誰も文句は言わない。ホエルが【天衣無縫】で、ロバをふわりと荷台に載せる。
「良い子にしてるのよ~」
ロバは退屈そうにいなないた。
そして全員が乗り込むと、いよいよ出発だ。
「イスが……ふわふわ……」
サレンがクッションを押して感触を確かめているのが、ルームミラーで見える。
「よし、じゃあ行くぞ」
俺はギアを入れて、アクセルを踏んだ。モーターの回転数が上がり、車が動き出す。
「すごいわソラ、お尻が痛くない!」
「飛んでいますわ! 羽根もないのに、地面の上を飛んでいますわ!」
モーターもギアも好調だ。サスペンションも良い感じに振動を緩和してくれている。
あとは賑やかな旅路だ。
「ソラ、そろそろ……その、ポワレ街道に入る」
「……わかった」
助手席とのやり取りが、若干気まずいのはさておき。
エルダーリッチは地図を見ながら、次の雷水晶に《サンダー》を込めてくれている。電圧計を見る限り、水晶の交換は二回くらいだろうか。途中、何度か休憩を挟みながら、道の良いポワレ街道を通り、ポワレの大樹で曲がって、ポワレ記念公園を横切った。やがて森の向こうに、高い尖塔が見えてくる。
「町が見えますわ!」
「フウカ、窓から首を出すと危ないぞ」
なにかにぶつかったくらいで不死鳥の首が取れるとは思えないけれど、一応注意しておく。
やがて、町の門まで辿り着いた。門の向こうに見える町は煉瓦造りで、いかにも『魔術師の町』という感じだ。少し車を門に近づけたところで、五人くらい衛兵らしき人たちが飛び出してきた。みな揃ってローブを纏っている。