「私にも……乗ってほしい……」
クワを担げた農夫が、怪訝そうな顔をして通り過ぎて行った。目が合ったので思わず会釈したものの、俺たちの会話が、どれだけいかがわしく聞こえたのかは、想像に難くない。悪徳貴族のボンボンと思われたかもしれない。
「それ、エル=ポワレでは絶対にやるなよ」
俺がそう言ったとき、エルダーリッチと目が合った。彼女はふいと視線を逸らす。
やっぱり、自分の名前を冠した町、というのは恥ずかしいのだろう。俺もまだ、ソラリオンに慣れない。
「ともかく、馬車を改造するから外に出てくれ。ここをエンジンルームにして……」
動力さえできてしまえば、後はそこまで難しくない。タイヤに動力を伝える機構を《構築》し、うんと丈夫なゴムタイヤを《合成》して取り付ける。サスペンションは丈夫に、柔軟に。七人と三匹(ミュウとロバ二匹)乗り、道の悪さも考慮して、車体は大きめにした。ピックアップトラックと、リムジンを合わせたイメージだ。
「完成だ!」
みんなが見守るなか、ついに自動車が完成した。俺が作業している間、エルダーリッチにはあとふたつ雷水晶を作ってもらったので、三相交流が取れるようになっている。
俺は早速運転席に座って、エンジンをかけた。
フィーン……と静かな音がボンネットから響き始める。交流モーターの調子は万全だ。
しかし、自分で造っておいてなんだけれど、錬金術で仕上げた自動車から新車の匂いがするのは不思議だ。これって、なんの匂いなんだろう。
「さあみんな、乗ってくれ」
みんなは不思議そうな顔をして車に乗り込もうとするのだが……。
「待ちなさいフェリス、なんであなたがソラの隣に座るのよ!」
リュカの言葉を、フェリスは鼻にも掛けない。
「こういうことは早い者勝ちだ」
「お兄様、そもそもどうしてこんな特別な席がございますの?」
「特別なこともないけど……これは助手席って言って、地図を持って道を案内してくれる人の席なんだ。だから地図をしっかり読めるやつに座って欲しいかな」
「ボク、ソラノ、アイボウ、ナビゲート、スル!」
「ミラクルスライムに地図が読めるのか?」
フェリスが言うと、
「ヨメルモン!」
ミュウがぽいんと跳ねる。
俺は助手を決めるために、ひとつ問題を出すことにした。
「ポワレ記念公園で曲がる場所の目印はどこでしょう」
「……………」