フェリスは、なんでもないふうに髪を指で漉く。

「私の毛並みに跨れば、ソラは気づけば眠ってしまうだろう」

「それを言うなら、わたくしの羽毛もなかなかのものでしてよ!」

 フウカが胸を張る。

「私に乗るとね~広くていいよ~」

 ホエルの言葉に、皆がうむむ、と黙り込む。確かにホエルの元の姿、巨大な白鯨の乗り心地は、悪いものではなかったのだ。

 そこで、取り残されているのがひとり。それは、他の姿を持たないサレンだ。

「私の身体は、結構柔らかい……」

 苦し紛れに、そんなことを言った。

「………………!」

 みんなが一斉に振り向く。

「そうよ! 元の姿にこだわらなくても、人間の姿で上に乗ってもらえばいいんだわ! それなら私もふにふにだもの!」

 リュカの言葉にフェリスが反論する。

「私だって、柔らかくて気持ちいいはずだ」

 ホエルはニコニコしながら。

「たぶんね~私がいちばんふわふわかな~」

「お肉のつきかたで勝負が決まるわけではありませんわ!」

「同意だな」

 フェリスはフウカの肩を持った。

「薄い脂肪の下にある筋肉のしなやかさも、乗り心地の良さには重要だ」

 リュカはそんなフェリスの裾を引っ張って、馬車に連れ込む。

「だったら試してみようじゃない!」

 そう言ってフェリスを押し倒した。

「ほら、私の、身体の方が、柔らかいでしょ!」

「バカか、いま乗られてるのは私だ」

「じゃあ交代よ!」

 馬車がギッシギッシと揺れる。

「さて、次は馬車を改造して車体を……って、なにやってんの?」

 馬車の中でリュカとフェリスが抱き合って、衣服の乱れるのも構わずに転げまわっている。

「ソラ、私に乗って!」

「いいや、ソラが跨るのは私だ」

「それならまずわたくしに!」

「また私に乗る~?」