そこで俺は、ふとひらめいた。

「そうだ……何もロバに牽かせる必要はないんだ……」

 俺がいた世界では、最もポピュラーな移動手段。そうだ、その手があった。

「よし、自動車を造るぞ!」

「ジドウシャ……ですの?」

 初めて聞く言葉に、フウカがきょとんと首を傾げる。

「自分で走る馬車みたいなもんだよ」

 問題は動力だ。

 俺がまず考えたのは、リュカの【獄炎焦熱】とフェリスの【絶対零度】を利用した蒸気機関。氷を溶かして蒸発させ、それでタービンを回して動力にする。

 しかしこれには問題があった。出力のコントロールだ。

 フェリスの【絶対零度】で生成される氷は、かなりの熱を与えないと溶けない。しかし水が溶けると、今度はリュカの【獄炎焦熱】の威力を速やかに、かつ繊細に落とさなければ、突沸を起こしてしまう。

 そうなれば自動車は、ギヤが壊れるか、大暴走するか、下手をすればタンクが爆発する。蒸気機関は、エネルギー=推進力になってしまうので、鍋でスープを作るほど簡単じゃない。コンロのようにツマミで火力を調節する装置や、バルブは多分用意できるけれど、内部圧力や【絶対零度】と【獄炎焦熱】の温度差による爆発を恐れながら、ツマミや圧力計と睨めっこする旅は、快適とは言えないだろう。

 仮に、大きな内圧に耐えうる丈夫なタンクを造ったとしよう。そうなると、当然重量が大きくなる。そうなれば推進に必要な圧力が増え、タンクは更に頑丈にしなければならない。更に頑丈なタンクは更に重量が大きくなり――というジレンマに陥る。

 となれば。

「出力の安定したエネルギー源……そうだ!」

 これまでは、あらゆる問題に対して錬金術やスキルを使って向き合ってきた。

 しかし今の俺には、拙くとも使える力がある。

 魔法だ。

「エルダーリッチ、確か《サンダー》を封じ込めた水晶があったよな?」

「このバッグに入っている。これを使うのかい」

 彼女が取り出した水晶の中では、雷が渦巻いている。

「これを動力源にするんだ」

 俺は馬車に積んだ銅のインゴットを外に出した。道中で手に入らないであろう材料は、少しずつ持ってきている。錬金術は材料が命だ。悪魔の森の洞窟で採取した、金属資源を使う。

「ネオジム……鉄……ホウ素……」


《合成》