道が悪くて、やけに揺れるなとは思っていたが、そのダメージが尻に来ていたらしい。やれやれ馭者ってのは大変だ、と思っていると。
「ソラ……」
みんなが、ふらふらしながら馬車から降りてきた。リュカが涙目でこぼす。
「ソラ……お尻痛い……」
馬車の中でも、振動はひどかったらしい。
「私も……限界だ……」
フェリスも腰をさすっている。
「私は平気だよ~」
ひとり平然としているホエルに、フウカが噛みついた。
「あなたはスキルでお尻が浮いてたでしょう! ずるいですわ! あ、いたたた!」
サレンとエルダーリッチも、青ざめているということは、やはり尻をやられたのだろう。
「ボク、ヘイキ!」
「お前は俺の膝にいたし、スライムだし」
「ミラクルスライム!」
この先何十キロもこの調子で進むのは、ちょっと難しい。旅の安全は守れても、尻の安全は守れそうにない。
「馬車を改造するしかないな……」
俺は自分の尻をさすりながら馬車の下を覗き込んだ。
「サスペンションか何かを取り付けるか……少しでも振動を……」
「少しいいか、ソラ」
痛みに青ざめた顔で、エルダーリッチが歩いてきた。
「ロバの足もとを見たまえ」
俺は車軸から顔を上げると、小石を掻いているロバの蹄を見た。
「マズいな……蹄鉄が外れかけてる」
ソラリオンの職人の腕に間違いはない。この道が、どれだけ悪いかということだ。
俺は歪んだ蹄鉄と釘に《鍛造》を使って形を整え、再びロバの蹄に打ち込んだ。
そしてこの先遠く続いている、荒れた道を眺めた。
「馬車の乗り心地を改良しても、これ以上行くとロバが足を痛めるかもしれないな」
これはかなり頭を抱える事態だ。
「ソラ、ドウシタノ?」
ミュウは荒れた道もなんのそのだ。ぽいんぽいん跳ねながら、俺のすねにぶつかってきた。
「道が悪いとロバも大変だって話だよ」
ミュウは体をむにっと歪めて、なにか考えているようだ。するとまた、ぽいんっと跳ねた。
「ロバ、バシャニ、ノセタラ、ダイジョウブ!」
「ミュウ、それじゃ馬車が進まないよ……ん?」