「さあみんな、乗り込んでくれ、あと個人の荷物も……エルダーリッチ、君の荷物はそれだけでいいのか?」
エルダーリッチは小さな革のバッグを抱いて微笑んだ。
「空間制御魔法を利用した鞄だ。中身はどっさりだよ。おそらく技術交換が為されるだろうからね。こちらもいろいろと用意していかなくてはなるまい」
そう言って、鞄からアイテムを次々と取り出した。
「サンダーを封じ込めた雷水晶に、ファイアを封じ込めた炎水晶、それらの制御装置、他にもいろいろと各種魔法アイテムが詰め込んである。君の考案した転移水晶加工装置もだ。それについては、さすがにミニチュアのレプリカだけれどもね」
まるで四次元のポケットのアレだ。俺は物理法則の狂った巨大迷宮を思い返した。あの技術は、いつか教わりたいものだ。
「さすが気が利くね」
「専門分野で恥はかけないからね」
そう言って彼女はウィンクを飛ばし、馬車の最後に乗り込んだ。
「それじゃ、出発だ!」
俺は馭者台に座る。ミュウが膝の上に乗った。
「シュッパツ、シンコー!」
鞭を入れずとも、ロバは歩き始めた。街の人たちが見送ってくれる。
「行ってらっしゃいませ、ソラ様!」
「お気をつけて!」
みんなにも声がかかる。
「リュカ署長! フェリス署長! ソラリオンの秩序は任されたであります!」
「ホエルせんせー! いってらっしゃーい!」
「フウカさん! サレンさん! 次回作『錬金術師VSサメ2』を楽しみにしててください! 今度のサメは飛びますよ!」
「ミュウ公! 新しい石像を楽しみにな!」
街のみんなの声を背に受けて、俺たちはソラリオンを出た。
しばらくは行商人がよく使っている平坦な道を進み、そこから山沿いへと下っていく。ロバは馬みたいに、ぐんぐん進まないけれど、それなりに良い感じだ。
「しかし揺れるな……」
案の定、道はお世辞にも良いとは言えなかった。膝の上に乗ったミュウが、まるで水を入れた風船のようにボインボインと跳ねる。しかし進めない、というほどではない。
旅は順調に進むかのように思えた。小一時間ほど進んで、ちょっとロバを休憩させようと思い、手綱を引いた。そして立ち上がろうとした瞬間、それは来た。
「痛っ!」