エルダーリッチは、ハーブティーをひと口飲んだ。ハーブは彼女の指導のもと、みんなで栽培している。

「それが馬車も出払ってて……まあ、これは俺が錬金術でなんとかするよ」

 俺は再び地図に目を向けた。

「じゃあ、ルートを決めようか。最初は山沿いを進む。ここは道が悪いらしいんだけれど、そもそも『魔術師の町』と『東の村』を行き来することなんて殆どなかっただろうから、これは仕方ないな」

 『ここは悪路』『下り坂注意』『魔物多し』など、市長がいろいろと書き込んでくれている。その地図上の道を、俺は指で辿っていった。

「で、ありがたいことに、その先には街道が走ってるみたいだ。えーと、なになに」

 街道の名前は。

「……ポワレ街道」

 エルダーリッチがハーブティーを吹き出した。みんなが一斉に彼女を見る。

 ヴァージニア・エル=ポワレ。彼女の本名だ。

「ぐ、偶然だろう、そんな」

 彼女には珍しく、テーブルから手をおろしてきょときょとしている。

「でも、『魔術師の町』に近づくほど、増えてくるぞ。ポワレの森。ポワレ記念公園。あ、『魔術師の町』にも名前があるのか。えーと、ああ、『エル=ポワレ』……まんまだな」

「もうやめてくれ……」

 エルダーリッチは、両手で顔を覆った。日頃からやり込められているだけに、ちょっといたずら心が芽生えてくる。

「まあ、自覚した方が良いんじゃないかな、自分が希代の大魔術師だってことを。ね、ヴァージニア・エル=ポワレさん」

 彼女は顔を隠した指の間から、片目を見せた。

「覚えていたまえ、私は今日という日を忘れない」

 ちょっと怖いことを言われてしまった。でも耳まで真っ赤になったエルダーリッチは、ちょっと珍しく可愛い。

「まあ……ともかくそのポワレ街道をまっすぐ行って、途中でポワレ記念公園を突っ切って行けば着くらしい。ポワレの大樹というのがあるらしいから、それを目印に曲がれば大丈夫みたいだ」

「………………」

 みんな地図ではなく、エルダーリッチを見ている。

「もう……ほんとにやめてくれ……」

 彼女は長い髪をテーブルに垂らして、頭を抱えていた。

「仕方ないだろ、地図に書いてあるんだから」

 そんなこんなで、道順と行き方が決まった。