「では、ご来訪のわけをお聞かせ願いたいですじゃ」

 使者は再び咳払いをし、息を整えた。

「実はその……わが『魔術師の町』は、ソラリオンと協定を結びたいと考えているのです……他国から独立した、おなじ自治領として……」

 声が小さくなっていく。彼は自分の魔法に大きな自信をもってここに来たのだろう。まさか伝説の大魔術師ヴァージニア・エル=ポワレと、その弟子がいるなんてことは、夢にも思わなかったに違いない。

「なるほど。それで、ちょいと錬金術師に脅しをかけてみたかったわけだ」

 エルダーリッチの言葉に、使者が縮こまる。

「どうか……私の軽率な行動は……勘定に入れずに……ご判断を……」

「ご心配なく、気にしてないですよ」

 外交における〝脅し〟の有効性は、今まさに彼自身が証明している通りだ。

 俺はなるべく使者を怖がらせないように言った。

「協定の件ですが、俺たちだけで今すぐ判断できることではないので、後日ご連絡させていただく、ということでよろしいでしょうか」

「ありがとうございます! ご無礼、ひらに、ひらにご容赦を……! 出過ぎた身ではございますが、なにとぞ、良きご返答をお待ちしております……!」

 使者は立ち上がって、逃げるように応接室を出て行った。

 市長は満面の笑みだ。

「いやあ、あの顔は傑作でしたな! 『東の村』が『魔術師の町』の使者を驚かす日が来ようとは……さすがソラどのですじゃ!」

 俺は後ろ頭を掻いた。

「脅かせすぎたかな」

「あれぐらいがちょうど良いよ。君はソラリオンの領主なのだから。威厳はいくらあっても邪魔にはならない」

 そう言って、肩をポンと叩いた。

「で、協定についてだ。君はどうしたい?」

「俺は興味がある」

 ティーカップの前で、指を組んだ。

「『魔術師の町』に、というよりは……世界に興味があるよ。傘下に入りたい町も出てきている以上、俺はもっとこの土地を、世界を知らなきゃいけない」

「ではこちらも使者を送りますかの」

「いえ」

 市長の言葉に、俺は答えた。

「俺自身が行きたいと思っています」

「なんと! ソラどのが、じきじきに出向くとは……」