《融解》


 テーブルの上のティーカップが、どろりと溶けた。

「ひっ」

 使者は跳ねるように身を引き、その前に浮かんでいた紅茶が飛び散った。


《分解》


 繊維状になった木のテーブルと、溶けたティーカップが、宙を舞う。

 使者はあんぐりと口を開いている。


《構築》


 木の繊維が丸く絡まり合って、表面に溶けたティーカップがマーブル模様を描く。

 それを、とん、と絨毯に着地させた。

「ご希望通り、球体にしました」

「あ……あ……」

 使者はひたいから汗を流しながら、目を剝いて木の塊を見つめている。

「これが……錬金術……」

 そして、はっと気づいたように、俺を見た。

「わ……私はその……使者に過ぎず……出過ぎた真似は……けして『魔術師の町』の総意というわけでは……たいへん私は……失礼な……どうか……どうかお許しを……!」

 震えながらそんなことを言う使者が、ちょっと可哀想になってきた。

 俺は再び《分解》と《構築》を使って、テーブルとティーカップを元に戻す。ついでに紅茶も《精製》できれいにしてから、ついでにリュカから継承した【獄炎焦熱】をわずかに発動させ、温めてティーカップに入れ直した。

 使者は、これが夢ではないかと疑っている様子だ。

「魔法の先達として、ひとつアドバイスをしておこう」

 エルダーリッチは、使者に言った。

「固定観念は、学びの大敵だ」

 そう言って、温め直した紅茶をひとくち飲んだ。

「ソラ、少し熱すぎる」

「ごめんごめん」

 俺たちがそんなやり取りをしている間も、使者は湯気を上げる紅茶を、呆然と眺めていた。

「ご挨拶は済んだ、ということでよろしいかの?」

 市長はニコニコしている。俺が『魔術師の町』の使者を驚かせたのが嬉しいらしい。