「わかりました、行きましょう」

 三人で、使者が待っている応接室へと向かった。


 応接室では、紫のフードを被った男が、紅茶を飲んで待っていた。テーブルを挟んで向かい合い、名乗り合う。

「あなたが、この街を治めているソラどのですね」

「いや、わしではございませぬ、このお方ですじゃ」

 俺は使者に頭を下げた。

「如月空です。ここの領主……ということになっています」

「これは失礼。思ったよりお若かったもので」

 使者は、慇懃に頭を下げた。

「それで、いかなるご用件でいらっしゃったのですかな?」

「我らが『魔術師の町』は、その……この街」

 エルダーリッチはそれを聞いて、ニヤリと笑う。

「ソラリオン、と先ほど名前が決まってね」

「そうでございましたか。ではそのソラリオンと、わが町で、協定を結ばないかというご提案を持って参った次第です」

 そう言って使者は、ソファに腰を据え直した。

「失礼ながら、これまで何人か我らの手の者を派遣して、ソラリオンを視察して参りました。この街は新しい技術で溢れている。魔法ではなく、錬金術なんぞでこのような……と、失礼」

 使者は咳払いをした。

「ソラどのは、錬金術師でしたね」

 やはり『魔術師の町』からの使者だから、錬金術は魔法の足元にも及ばない、というようなイメージを持っているのだろうか。もっとも【錬金術】は外れスキルだなんて言われて、俺は悪魔の森に追放されたのだから、この世界ではそれが常識なのかもしれない。

「ひとつ質問がある」

 エルダーリッチは使者に不敵な視線を送る。

「君たちの魔法研究というのは、どの程度のものなのかな」

 使者が、眉を片方上げた。

「『魔術師の町』の〝程度〟を尋ねるというのは、なかなか愉快なお方だ」

「私も多少、魔法をかじっているものでね」

 その言葉が癇に障ったらしい。使者はエルダーリッチの目を睨んだ。

「なるほど、では一応、私も町の使者ではあります。その〝程度〟というものを御覧に入れましょう」

 使者は、手元のティーカップに両手を向けて、なにやら唱え始めた。俺はちょっと不思議に思って、エルダーリッチに小声で話しかけた。